劣悪な環境に人手不足…日本が誇るアニメ制作のスキル継承に赤ランプ 業界団体が人材育成目指し「検定」制度をスタート
海外で高く評価される日本のアニメ。その市場規模は3兆円に達する見込みともいわれているが、制作現場では劣悪な労働環境が問題となっている。約30年間で制作本数は3倍以上に増加する一方で(日本動画協会より)、スタッフ数は大きく増えておらず、人員不足の深刻化が進む。現場では新人を育成する余力がなく、これまで日本のアニメ業界が培ってきたスキルの継承が困難な状況に陥っているという。 【写真】京アニ放火殺人、青葉被告の再犯防止支援は「やれることはやっていた」のに、なぜ防げなかった?
このままでは、アニメ制作の技術がなくなってしまう―。そんな危機感を強く抱いた業界団体「日本アニメフィルム文化連盟」(NAFCA)は人材獲得、育成を目的にした「アニメータースキル検定」を創設。その申し込みをスタートした。 同団体の理事でアニメ監督のヤマトナオミチさんと、同じく理事で動画監督の福井智子さんに、業界の現状や問題点、検定への期待感などについて詳しく聞いた。(共同通信=高坂真喜子) ▽後輩指導に手が回らない ―「アニメータースキル検定」はアニメーターの技術の土台となる「動画」の実技試験などをするそうですね。このような検定を始めた背景や、アニメ業界を取り巻く環境について教えてください。 福井 (1990年代後半以降)制作環境のデジタル化で効率化が進み、制作時間が短縮されたことなどで、作品の量もかなり増えました。元々アニメーターは師弟制度で技術が継承されてきましたが、人手が足りないため、新人にもどんどん仕事を任せるようになり、うまくできなければ先輩が修正することに…。すると先輩の負担が増え、後輩を指導するところまで手が回らなくなったのです。
ヤマト 技術の基本となる、動きを表現する「動画」の作業を人手不足で海外に発注することが多くなったことも影響しています。 福井 通常、動画を学んでから従事する原画の作業に、動画の経験があまりないまま担当することが増えました。 ▽「格付け」にはせず ―NAFCAによると、制作本数は増加していますが、アニメーターの人数は大きくは増えてはいないそうですね。 福井 技術継承がうまくいかない悪循環の中で、技術を持っていない人たちがそのまま数多く仕事をするようになりました。そんな状態が20年ほど続き、修正する立場の人たちの中にも、間違ったやり方でやっている人が増えています。 一見きちんと動いているように見えるけれど、人や物の動きを理論的に理解していないので、おかしなことになっています。一方で、今まで活躍してきたベテランも引退していきます。 ―検定は「何級を持っているからすごい」というような「格付け」にはしたくないとのことですね。