予算も時間も人も足りないプロジェクト…メンバーのやる気を出す「マネジャーの声掛け」【勤続46年・元ソニー社員が解説】
引き受けた任務をまっとうする覚悟
あなたが、もし会社の重要なプロジェクトのプロジェクト・マネジャーとして任命された場合、どのようなことを考えるでしょうか。企業においては、ビジネスニーズにより、さまざまなプロジェクトを立ち上げます。しかし、必ずしも十分なリソースや予算が与えられるわけではありません。任命されたプロジェクト・マネジャーは、「こんなにたくさんの仕様を、この短期間で、さらにこんな少ない予算ではできるはずがないだろう」と考えてしまうのではないでしょうか。 プロジェクト・マネジャーを引き受けた以上は、「私は絶対にこのプロジェクトを成功させる」と覚悟を決め、できるプロジェクト・マネジャーにふさわしい行動をとろうとします。そして、できるプロジェクト・マネジャーはどのような行動をとっているかを研究し、「あの人にならついていきたい」と思われるような人間になることです。そのような行動をとるためには、引き受けた任務を自覚し、覚悟を決めなければなりません。プロジェクト・マネジャーがはじめからあきらめてしまっては、プロジェクトは成功しません。また、メンバーもやる気を失ってしまいます。 プロジェクトは世の中にない製品やサービスを創る業務です。経営層は夢を語り、その夢を実現するのがプロジェクト・マネジャーの使命です。できない理由をいくら並べても前へ進みません。 ソニーの得意技は「軽薄短小」でした。より軽く、より薄く、より小さくすることは得意分野です。オーディオ設計のエンジニアは、次のように主張していました。「ウォークマンはカセットテープのサイズまで小さくすることができた。ビデオデッキもビデオテープの大きさまで小さくすることができるはずだ」ビデオ設計のエンジニアは、「ビデオデッキはドラム(画像を記録するスペース)があるからそれはできない」と言っていました。しかし、その後ビデオデッキもビデオテープのサイズまで小さくできたのです。ソニーの経営層からは「どうすればできるのかを徹底的に考えなさい」と、よく言われたものです。 アポロ13号の伝説のフライト・ディレクターであるジーン・クランツ氏は、「OK! みんなクールに行こうぜ。そして問題を解決しよう」と言ってメンバーを鼓舞したそうです。電力不足、船内の二酸化炭素濃度の上昇など次から次へと危機が訪れ、アポロ13号の飛行士たちは数々の試練を乗り越えなければなりませんでした。まさに「非常時のリーダーシップ」のお手本がここにあるのです。 みんなが一丸となってクルーを戻そうと、いろいろなアイデアを出してきます。それをクランツ氏は即座に考え決断します。そして「絶対に彼らを地球に返す」という確固たる意志は、最後までゆるぐことなく管制センターのメンバーを指揮し、クルーを無事に地球の地に返しました。 この危機対応の鮮やかさにより、この一件は「成功した失敗(successful failure)」と称えられ、ジーン・クランツ氏が後にまとめた仕事に関する10か条は世界中のビジネスパーソンに今も語り継がれています。 【ジーン・クランツの仕事に関する10か条】 1. 積極的に行動せよ 2. 自分の役割は自ら責任をもて 3. あきらめずに全力で遂行せよ 4. わからないことは必ず確認せよ 5. 考えられることはすべて試し、確認せよ 6. 何事もすべて書き出せ 7. ミスを隠すな 8. システム全体を掌握せよ 9. 常に先を意識せよ 10. 仲間を尊重し、信頼せよ あなたのプロジェクトにも役立つ考え方があると思います。ぜひ実践してみてください。 小山 透 プロジェクトマネジメント・エバンジェリスト