脱管理型で「学校主役」の教育行政に転換、高橋洋平・鎌倉市教育長の手腕 子どもと先生を助け、支え、励ます伴走型の教委
「正しいこと」を「本当に正しいこと」に
文部科学省や外資系コンサルティングファームに勤務後、2023年8月に鎌倉市教育委員会教育長に就任した高橋洋平氏。教育行政職の公募・採用などの組織運営が注目を集め、ふるさと納税を活用した企業連携によるプロジェクト型学習、不登校特例校の設立などにも力を入れる。高橋氏に、鎌倉市が目指す教育や教育委員会、教育行政のあり方、日本の教育の今後などについて聞いた。 【図で見る】鎌倉市は「文科省→都道府県教育委員会→市町村教育委員会→学校管理職→教職員→児童生徒というピラミッド型」の教育行政ではなく、「逆ピラミッド型」の新しい教育行政を目指している ――鎌倉市教育委員会教育長就任までの経緯、教育長としての決意について教えてください。 大学卒業後、文部科学省に入省し、教職員の人事制度、学校教育のデジタル化や福島県での震災復興、アメリカ・カリフォルニアに渡って現地の教育研究など多岐にわたる教育分野で経験を積んできました。2022年に文科省を退職し、PwCコンサルティング合同会社の教育チームのマネージャーとして、全国の教育委員会や大学の経営支援などに携わりました。 その中で、文科省時代の同僚である鎌倉市の岩岡寛人教育長(当時)とも仕事をする機会がありました。松尾崇市長にもお目にかかり、意見交換を重ね、岩岡さんの任期満了に伴う新しい教育長として任命いただきました。文科省は退職していますので、教育長への民間人登用ということになりますね。 文科省では法令や予算などの政策、企画調整に携わり、大量の文書を読み、そして書いてきました。学習指導要領や学校のデジタル化など文科省がつくる政策文書は「正しいこと」ではあるものの、ある意味では正しすぎる側面もあり、教育現場に根付くようにしていくためには、いかに解釈しカスタマイズしていけるかが重要です。 民間のコンサルティング会社に籍を移したのは、「正しいこと」を、いかに現場とともに実装し、「本当に正しいこと」にしていけるか、そこに力を割きたいという思いがあったからです。 鎌倉市教育長という立場に変わりましたが、文科省にいた時と、志は変わっていません。「正しいこと」を「本当に正しいこと」にしていくため、鎌倉さえよければということではなく、日本の教育現場が元気になれるよう、同僚たちとともに挑戦していきたいと思っています。今も文科省やPwC、福島県とも、いろいろと仕事はご一緒していますしね。 ――就任されてすぐ、新設ポジション「教育行政職」の公募を行いました。 教育行政の現場には、教職員はもちろん司書、学芸員など専門性の高い有能なスタッフがおり、上位下達でマネジメントできる行政分野ではありません。鎌倉市教育委員会は、こうした専門職がそれぞれの現場で創造性を思う存分発揮できるよう、助け、支え、励ます「伴走型の教育委員会」を目指しています。この教育委員会像に沿って、教育委員会を中心に経験を積み、一般行政とも異なる教育行政の特徴を踏まえた実務を担う「教育行政職」という新たな職を募集することにしました。 新たな職に関心を持ってくれる人に広く届けたいという思いがあり2023年12月、協定に基づきエン・ジャパンと連携し「ソーシャルインパクト採用プロジェクト」として公募したところ、100名を超える方々から応募いただきました。 結果、熱い思いを持った4名の方を採用。2024年4月より入庁いただいています。教育と行政の両方に軸足を置きながら、これまでの経験を生かし、力を発揮していただくことを期待しています。