脱管理型で「学校主役」の教育行政に転換、高橋洋平・鎌倉市教育長の手腕 子どもと先生を助け、支え、励ます伴走型の教委
2025年に「学びの多様化学校」を開設
――不登校支援の取り組みについて教えてください。 全国と同様、鎌倉市も不登校の児童生徒は増加しています。そこで、2021年度から不登校支援の1つとして市独自の「かまくらULTLAプログラム」(ULTLA=Uniqueness Liberation Through Learning optimization and Assessment 「学びの最適化と評価による個性の解放」の略/小4から中3対象)を実施しています。 学校になじめない子どもの個性や特性を科学的に把握し、自分にあった学び方でその子の個性・特性を最大限に発揮できるようになることを目的に、森、お寺、海など鎌倉の地域特性を生かした環境の中で、自分らしく学んでいく方法を見つけていく3日間の探究プログラムを実施しています。 毎年2回行ってきたこのプログラムを今年度も実施するのに加え、2025年4月に学びの多様化学校を開設する予定です。鎌倉市立御成中学校の分校として開校し、定員は30名。「かまくらULTLAプログラム」のエッセンスを取り入れ「自分らしく学び、自分らしく成⻑できる学校」をコンセプトに、異学年・少人数・個別など多様な学び方で、学校内だけでなく、海や森、街など“鎌倉全体”を生かして、一律ではなく自分のペースで、教科の枠を超えて体験的・探究的に学べる場づくりを目指しています。 これらの要素は、ゆくゆくはどの学校にも必要なセンスだと思っています。現段階では不登校支援の施策ですが、鎌倉市内あるいは全国の学校で、学習者中心の学びを行うヒントになればと思っています。
教育政策のリーダーの人材育成を
――これからの教育長のあるべき姿について、どのようにお考えでしょうか。 教育長は、地方公共団体の長が議会の同意を得て任命される教育行政の責任者という重要な職です。公教育をアップデートしていこうと、若手の起業家などさまざまな志ある教育関係者がチャレンジしているにもかかわらず、教育長の存在感が薄いのではないか、とも思えます。また多様性にも乏しく、50歳未満の教育長は0.3%、女性の教育長は5%という割合です。 生成AIの急激な発展や少子高齢化など社会構造が大きく変化する中、日本の教育も過渡期、変換期を迎えており、教育政策が果たす役割は高まってきています。 同時に、教育長をはじめとする教育政策のリーダーに求められる資質も変化し、より高度になってきています。教育長には、学校管理職とも異なる、教育的指導力、行政的マネジメント力、政治的調整力の3つの資質が求められていると思っており、その専門性を切磋琢磨することも必要と考えています。 ――2024年3月、「教育政策のリーダーシップにより多様性と専門性を」をコンセプトに、「一般社団法人LEAP」を立ち上げられました。 「一般社団法人LEAP」は、これからの子どもたちの学びを転換していくための、思いある教育政策リーダーたちのプラットフォームや、首長や大学との懸け橋になれればとの思いです。 代表理事として東京大学公共政策大学院教授の鈴木寛さん、兵庫教育大学長の加治佐哲也さんなどとご一緒するとともに、各自治体の現職教育長たちとともにまずは走り始めました。教育政策の人材育成をリードする東京大学・兵庫教育大学などと連携し、首長や教育委員会の課題に応じた組織や人材のコンサルティング、ネットワークの構築などを行っていきます。 4月に、キックオフイベントとして「教育政策リーダーフォーラム」をメタバース上で開催しました。教育改革で注目される青森県知事の宮下宗一郎さんや大阪府教育委員会教育長の水野達朗さん、石川県加賀市教育委員会教育長の島谷千春さんらに登壇いただき、これからの教育改革に求められる教育行政のあるべき姿について議論しました。教育行政の人材の流動性が高まる中、鎌倉市教育長としての職務を全うしつつ、大学、首長、教育長、教育長候補者をつなげる役割を果たし、団体として政策提言や研究活動なども行っていきたいと思います。 (企画・文:長島ともこ、写真:すべて鎌倉市教育委員会提供)
東洋経済education × ICT編集部