兵庫の鉄工所に、優秀な人材はこう集う! 中小企業が実践する人的資本経営
長期的な視点に立った人材育成と地域貢献
2. 長期的な視点に立った人材育成と地域貢献 同社として昔から力を入れていることの一つに「長い目で見た教育への投資」がある。この考え方を受け継ぎ、本丸さんは、社員一人ひとりの成長こそが会社の成長につながると考え、教育投資により一層の力を入れる。若者世代の課題となっている奨学金に関しても、新卒・中途採用を問わず、最長10年の「奨学金返済支援手当」を創設したり、社員のリカレント教育・リスキリングを支援するための、大学の学費を社費で拠出する制度などを導入した。 特筆すべきは、社員の子供の習い事代の半額を会社が負担する「育児教育手当制度」である。同社が持つ、保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的な認識の下、将来の社会を担う(社員の)子供の教育に同社が資することを目的としており、同制度を通じて社員は子供の成長に真摯に向き合うことに繋がっている。 これらの人材育成の取り組みの結果として、成長や挑戦を応援してくれる環境を求める学生から逆指名的に同社を選ぶ人が増えたほか、親同伴による会社見学や高校での会社説明の機会など、自社のエントリーに資する接続機会の増加にも繋がっているようだ。 3. 「趣味から実益」につながる多角化戦略 しかしながら、これまで述べてきた、人づくり・組織づくりだけでは、製造業が持つネガティブなイメージはなかなか払拭されない。「ものを作る」ということに「面白さ」を加えて魅力を届け、単なる製造業から脱却するため、同社は曲げの金属加工という製造技術を核とした多角化戦略を展開している。自社の加工技術を活かした大型ディスプレイの組み上げ機構の開発をきっかけに、M&Aによる映像制作事業に進出したほか、IT事業、水産事業、教育事業など、異分野への展開も積極的に進めている。 これら一見関係なさそうな多角化だが、「趣味から実益」という観点のもと、本丸さんの中では一貫して「ものづくりが活躍できる(インパクトが生み出せる)余白があるかどうか」、そして「社員個人として動機づけがある分野・領域かどうか(モメンタムが働く分野かどうか)」という哲学で多角化戦略に取り組んでいる。 まだまだ道半ばではあるが、会社そのものや事業の面白さに関心を持つ人が徐々に集まり、その結果として、社員全員の知能と技術の幅が広がること(広い意味で多能工化)につながることで、会社の業績も向上している。 4. 地域企業の持続可能性を拓く 兵庫ベンダ工業の挑戦は、地方企業が生き残るための新たな道筋を示している。「まじめにおもしろいモノ・コトづくり」を理念に、社員のモチベーション向上とイノベーション創出を軸とした経営改革を推進することで、同社は地域に根差した持続可能な企業の可能性を模索し続けるだろう。