中国「無差別襲撃」の背景に“詰む人”多発の悪循環 「人生を再建しにくい制度」が人の心を追い詰める
■人間の心をかなり追い詰める 安田:日本に置き換えても同じだと思いますが、経済的に破綻してしまった人が自分の事業を再建しようと思っても、新幹線に乗れない、まともなホテルに泊まれない、といった制限が課されてしまったらまず無理ですよね。しかも、商業的に何かの契約を結ぼうと思っても、名前を検索されるとすぐ「悪人だ」と出てきてしまう。 この制度、もともとの目的は本当に不誠実な人をあぶり出して社会をよくしようというものだったはずです。ただとても可哀そうだなと思うのは、コロナ禍のロックダウンで、本人には不誠実なことをする気がまったくなかったのに多重債務者になってしまった人なども「失信人」になってしまっている点です。
さらにいうと、中国には自己破産制度がありません。多重債務状態で首が回らなくても、永遠に借金を返し続けなければならないわけです。事業は再建できないのに借金からも逃げられない……。この状況は正直、かなり人間の心を追い詰めるだろうと思います。 もちろん、目下たくさん起きている無差別事件のすべてが「失信人」によるものなのかはわかりません。ただ、最近の中国社会の閉塞感や経済低迷の影響は強く受けているのではないかと想像されます。
劉:一度落ちてしまうと再チャレンジできない、本当に厳しい社会ですが、一方でそういうところに落ちない人たちからすると、「悪人をちゃんと識別できていいじゃないか」という心地よい、支持されやすい制度といえるかもしれませんね。 安田:そういう側面があると思います。
劉 彦甫 :東洋経済 記者/安田 峰俊 :ルポライター