中国「無差別襲撃」の背景に“詰む人”多発の悪循環 「人生を再建しにくい制度」が人の心を追い詰める
■監視体制の普及では防げないもの 劉:こうした事件が多発するのには、中国特有の事情があるのでしょうか。中国政府は一時期、「自分たちの国は治安がいいんだ」と主張していたと思うのですが、実際のところはどうなのでしょう。 安田:確かに、中国の治安は一般の日本人がイメージするであろうものよりはるかにいいです。昔と比べてなぜよくなったかというと、1つの要因は監視カメラの普及です。そしてスマホのGPSなどで人々の動きをサーチすることも含めた、国民監視体制の普及ですね。
これによって、何か物を盗んだり、自分の利益のために人を陥れたりといった”普通の悪い人”の犯罪は実際かなり抑止できます。自分がどこで何をしたか、すごく足がつきやすい環境なので。 一方で、「もう自分は捕まっても別にいいんだ」「死刑になっても構わない」という、やけっぱちになっている人の犯罪は、監視体制の強化ではまったく防げない。これが先ほど挙げたような無差別事件の背景にあるのではないかと思います。 劉:抑えがきかずに事件を起こす人が増えてしまう。中国はそういう社会情勢になってしまったということでしょうか。
安田:前提として、中国では何か事件が起きても犯人の動機まで報道されるケースがほとんどないので、多くは外部から推測するしかありません。ただそれでもよく言われるのは、事件を起こす人たちには「社会に対する復讐心」があるということ。 というのも、今の中国社会には「詰んでしまった人」というのが非常に多くいると思います。その1つが、いわゆる多重債務者です。 多重に債務がある、かつ返済が滞ってしまっている人を中国では「失信人(しつしんじん)」と呼んでおり、彼らをめぐる制度が非常にえげつないものになっています。
例えば、債務を返す気のない悪質なやつだと当局側が判断した場合、その人の顔写真、名前、住所、身分証番号が、地下鉄の中などにさらされることがあります。この情報は公的なサイトでも検索可能です。 さらに失信人認定を受けた人は、ケース・バイ・ケースではあるものの、高速鉄道や飛行機の利用ができない、一定レベル以上の星付きホテルに宿泊することもできない、加えて国からの補助金などももらえない……ということになっています。