1ヵ月で10万部!恋愛も孤独も老後も「経営でできている」と説く東大初の経営学博士が書いた本の中身
読むとわかるが、何を隠そう岩尾先生、文学にかなり造詣が深い。本書の各章の文中小見出しは全て「パロディでできている」のだが、「既存の文芸作品・映画作品・哲学書等を参考にして作成」したという。 《ライ麦ばかりでつまらない:不明確な目的がもたらす「貧乏の罠」》(J・D・サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』) 《胃の名残り:健康をめぐる「過ぎたるは猶及ばざるが如し」》(カズオ・イシグロ『日の名残り』) 《仮面の告発:科学者が陥るランキング至上主義の病》(三島由紀夫『仮面の告白』) といった具合なのである。小見出しと巻末に並ぶ参考作品とを照らし合わせる作業も、これまたちょっと楽しい。 「学生時代は三田文学塾生会という文学サークルに入って文学作品を書いていて、慶應ペンクラブとの合評会で荻野アンナ先生から講評を受けたりしていました。 小見出しは、パロディといってもただのこじつけではなくて、ちゃんと内容に関連した作品を選んでいるんです。たとえば『さらば経営嫌いのオトナ』という小見出しは、椎名誠さんの『さらば国分寺書店のオババ』のパロディですが、言おうとしていることが一致しているから小見出しに持ってきました。文体もこの節だけは昭和軽薄体に寄せています」 かなりの労力を要したであろうことは想像に難くない。文学好きは、本書に散りばめられた工夫や仕掛けに出合うたび喜びそうだ。 「残念なことに、読書好きや文学系の人に十分に届いていない気がしています。『経営』の文字が入っているだけで、文学作品や哲学書を読んでいる人には敬遠されそうですよね。エッセイ風のタイトルにしたつもりなんですが、ビジネス書の類だろうという思い込みがあるのか、なかなか手に取ってもらえないようで……。 本書は経営の概念をもう一度考え直すための本だと、私は『はじめに』にも『おわりに』にも書いています。読者に読みながら『これって経営だっけ?』と思ってもらえたら、この本としては成功。まずは、ゆっくり読み始めてもらえるとうれしいです」 自分の人生を経営する当事者になろう――そんな意識が、読めばきっと芽生えてくるに違いない。 岩尾俊兵(いわお・しゅんぺい) 慶應義塾大学商学部准教授。東京大学博士(経営学)。組織学会評議員、日本生産管理学会理事を歴任。著書に『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)、『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)、『日本“式”経営の逆襲』(日本経済新聞出版)、『イノベーションを生む“改善”』(有斐閣)ほか。共著に『はじめてのオペレーション経営 』(有斐閣ストゥディア)。 取材・文:斉藤さゆり
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