1ヵ月で10万部!恋愛も孤独も老後も「経営でできている」と説く東大初の経営学博士が書いた本の中身
個人や社会に不幸をもたらしているのは……
世間に流布する経営概念を覆す新書『世界は経営でできている』が売れている。 今年の1月に刊行され、現在のところ15万部超え。著者は慶應義塾大学商学部の岩尾俊兵准教授。経営学界のホープと目される、東京大学史上初の経営学博士だ。 【画像】大学教授、国連職員、セラピスト…弁護士・菊間千乃だけじゃない華麗な転身を遂げた女子アナた 『世界は経営でできている』の書き出しで、岩尾先生はこう断定する。 《日常は経営であふれている。》 そして、「経営」を次のように定義している。 《本来の経営は「価値創造(=他者と自分を同時に幸せにすること)という究極の目的に向かい、中間目標と手段の本質・意義・有効性を問い直し、究極の目的の実現を妨げる対立を解消して、豊かな共同体を創り上げること」だ。 この経営概念の下では誰もが人生を経営する当事者となる。》(『世界は経営でできている』「はじめに」より) しかし、「自分の人生を経営している」と認識している人はどれだけいるだろう。 岩尾先生に話を聞いた。 「経営と聞いて、『価値創造を通じて対立を解消しながら共同体全体の幸せを実現すること』という本来の意味を思い浮かべる人は少数でしょうね。 今の日本には、価値は有限だとする思い込みがあって、みんながその有限な価値を奪い合おうとして疲弊してしまっています。この『価値有限思考』とでもいうべきものが経営の失敗を招き、個人や社会に不幸をもたらしているという仮説が、私の中にありました。 世の中に薄く広まっているこの思考を変えていかなければ、誰もが貧しくなってしまう。そう確信するに至り、経営概念を再転換する目的でこの本を書いたんです」 気鋭の経営学者が書いた新書は、たちまちベストセラーに。岩尾先生のもとには、これまでの著書では見られなかった女性読者や経営書をあまり読まない層から「面白く読めた」といった声が届いているという。 「この本は広く読んでもらいたかったので、当初から、流行的かつ爆発的に売れることより長く売れ続けることを重視していました。ただ、長い間売っていくためには最初の瞬発力も必要なわけで。 実は、オビに載せる煽り文を一度変えているんです。発売当初は『上司はなぜ無能なのか?』だったのが、10万部を超えて以降は『みんな人生の経営者!』としています。 今年だけのヒットを目指すのであれば、『上司はなぜ無能なのか?』のほうがキャッチーで目を引いていて適していたでしょう。実際にオビが変わってからは売り行きが一気に鈍化してしまったくらいです。 でも目指すのはキャッチーさで今年だけ受けることではなくて、図書館で借りて読んでもらってもいいから『50年で1000万人の考え方が変わる本』。その大きな目標のために短期の売り上げを犠牲にし、オビの煽り文によって誤解する人が増えていた段階で、本の内容を正確に伝える副題に変えて一気にブレーキをかけた感じです」 こうした仕掛けも、経営の一環と考えていいのだろうか。 「本の内容をどうやって世の中に広めていくかというのも、ある意味、経営と言えますね」