ザックがタッチラインで激怒した理由
指揮官激昂に内田篤人「あまり見たことがない」
右サイドバックの酒井宏樹(ハノーファー)が、センターバックの栗原勇蔵(横浜F・マリノス)へボールを下げた直後だった。ベンチ前のテクニカルエリアで戦況を見つめていた日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督が、突如として激昂する。 大きく両手を振り上げ、きびすを返した表情は執拗に何かを怒鳴り散らしている。ブルガリア代表に2点のリードを許して迎えた後半38分。酒井と交代し、ベンチに座っていたDF内田篤人(シャルケ)が「あまり見たことのないような感じで怒っていましたね」と驚いたシーンに、ザッケローニ監督の苛立ちが凝縮されていた。 温厚でもの静かなイタリア人指揮官がなぜ豹変したのか。内田はその理由を察していた。「バックパスが多かったからじゃないですかね。不利な状況でも落ち着いてプレーすることは必要だけど、ただパスを回せばいいわけではない。バックパスが多くなって、前へボールを運べなくなって、ミスが出たらカウンター。アウェーということもあって、相手もそれを狙ってくる。悪循環というヤツですね」。 2点のビハインドを背負って以降も、ボールを大事にするあまり、バックパスを選択するシーンが目立った。開始早々の前半4分に、FKからの激しいぶれ球で川島のパンチングをふり払い先制点を奪ったブルガリアは、そこからはチーム全体が引いてカウンターを狙う戦法を取ってきた。 日本には攻め込むためのスペースがないしスペースを作り出すような動きもない。無理にパスを通そうとすれば、カウンターの脅威にさらされる。リスクだけが一人歩きし始めると、一度ボールを下げて組み立て直す選択肢しか残っていなかった。バックパスが増えた理由がここにある。 「技術は日本のほうがあるかもしれないけど、前に行く力はブルガリアの方が強かった」。内田は素直に完敗を認めながらこう続けた。 「オーストラリア戦とは関係ないっしょ、と言いたいところだけど、誰もが大事と分かっていること時期に勝てないのは精神的な弱さを感じる。強いチームは、ここという時は絶対に負けない」。 1年半ぶりに封印が解かれた3‐4‐3で臨んだ前半は、わずか3本のシュートしか放つことができなかった。ザッケローニ監督が求める3‐4‐3は、3バックで組む最終ラインが横ずれを繰り返すことが生命線になる。DF今野泰幸(ガンバ大阪)から、こんな話を聞いたことがある。 「極端な話、逆サイドの守備は捨てるくらいの気持ちでやらないといけない」。