ザックがタッチラインで激怒した理由
最後のテストで不甲斐ない内容
3バックが左にずれれば、前半は駒野友一(ジュビロ磐田)が務めた左MFを、右にずれれば内田を必然的に前へと押し上げる。左で駒野とFW香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)、右で内田とFW乾貴士(フランクフルト)が絡んで数的優位な状況を作り上げる。これが青写真だ。 最大の決定機となった前半31分のシーン。香川、駒野、左に流れてきた乾のパスワークで完全に相手守備陣を翻弄し、最後は香川が強烈なシュートを放った。相手GKのファインセーブの前にCKへ逃れられてしまったが、過去4度の実戦では見られなかったコンビネーションだった。 しかし、不慣れゆえに単発で終わる。内田が「決まりごとを意識しすぎているのかな。ちょっと窮屈。監督から言われたことを忠実に守るのが日本人のいいところなんだけど」と振り返ったように、頭で考えることが先行するあまりに、実際のプレーがワンテンポ、ツーテンポ遅れる。必然的にシュートは、もちろん、チャンスそのものも少なくなる。 駒野や内田が最終ラインに吸収され、5バック状態になるこれまでの悪癖も幾度となく見られた。DF吉田麻也(サウサンプトン)が「守備面でも攻撃面でもチグハグ感はあったけど、1回や2回でスッとできるものではない」と振り返ったように、それだけ3‐4‐3習得へのハードルは高い。 ブルガリア戦はザッケローニ監督が強く望み、国際Aマッチデーではない日にあえて組んだ背景がある。すべては引き分け以上でW杯ブラジル大会出場が決まる、6月4日のオーストラリア代表との大一番(埼玉スタジアム)をにらんだものだ。 いわば最後のテストとなる舞台で、前への推進力とシュートへの意識というサッカーにおける「イロハのイ」を実践することができなかった。0-2の結果だけでなく、不甲斐ない内容が、余計に指揮官を苛立たせ、珍しい激昂シーンにつながったのだろう。 試合終了から約30分後。監督会見に臨んだザッケローニ監督は、平静さを取り戻していた。冷静にオーストラリア戦に向けての課題を言葉にした。「ゴールへ向かうパスの供給率が少なかったように思う。日本にはこれまでの戦い方というものが合っていると思う。やはり体でぶつかりあっても不利なので、コンビネーションを出していく、オフ・ザ・ボールの動きを出す、そして相手をより多く飛ばすようなタテのパスを供給すべきではないか」。 所属チームが国内カップ戦の決勝に進んだ関係で、大黒柱の本田圭佑(CSKAモスクワ)とチーム最多得点をあげているFW岡崎慎司(シュツットガルト)の合流はオーストラリア戦前日の3日になる。しかも、右太ももを痛め、5月12日のリーグ戦を最後に実戦から遠ざかっている本田のコンディションは、帰国してからでないと確認できない。