大谷翔平は”アジア人差別”の壁を壊した…「オオタニ以前・以後」で変わった日本人のイメージ
アジア系アメリカ人「ずっと求めてきた存在」
こうした負のイメージを、大谷は「アジア人の新しいモデル」を示して超越する。身長約193センチの逞しい体つきで、打っても投げても超一流、アメリカの代表的なスポーツである野球において世界最高レベルの選手とされる。 同時に、大谷は丁寧で礼儀正しく、寛大で思いやりも備える。球場でごみを拾うこともある。ドジャースとの契約では、7億ドル中6億8000万ドルを無利子の後払いとし、勝てるチームづくりのための補強に充てられるよう計らった。そして、日本の小学生に、6万個ものグローブを贈った。 こうした実績と人柄が相まって、世界中に大勢の大谷ファンが生まれた。だが中でも最も熱心なファンを抱えるのが、アジア圏とアジア系アメリカ人コミュニティだ。 「彼こそ、われわれがこの10年近くずっと求めてきた存在です」と話すのは、マサチューセッツ州のストーンヒル大学教授で南アジア系アメリカ人のスタンリー・タンガラージ。タンガラージは「人種・エスニシティ・社会正義研究センター」の長を務めている。 アジアにルーツを持ち世界的に注目を集めたプロスポーツ選手は、NBAでプレーしたジェレミー・リン以降、出ていなかったとタンガラージは指摘する。トーランス生まれで台湾からの移民を親に持つリンは、ニューヨーク・ニックスに在籍した2011–12シーズンにブレイクし、「Linsanity(リンの熱狂)」と呼ばれるブームを起こした。 しかしそのような人物はごくまれにしかいない、とタンガラージは言う。「男らしさが足りない、頭脳ばかりで力がない」といったアジア人やアジア系アメリカ人男性へのステレオタイプが影を落としているという。 もちろんアジア系であっても、ステレオタイプを気に留めない人もいる。だが多くの人は、そうした世間の評価やイメージを意識する。だからこそ、ブルース・リーの登場と、彼が1970年代に相次いで出演した映画にアジア系アメリカ人は沸いた。華麗な武術を披露する彼を誇らしく思い、力づけられたのだ。 だが大谷は別次元に達しているとタンガラージはみる。リーが秀でていたのはアジアの武術だ。一方の大谷は最もアメリカ的なスポーツで素晴らしい活躍を見せている。「リンの熱狂」は数か月で途絶えたが、大谷の輝きはここまで何年もあせていない。