侍投手陣を育む大切な土壌…日本生まれで世界の認知度低い『軟式野球』今回招集の投手の中では“13分の8”
◇渋谷真コラム・龍の背に乗って・侍ジャパン編 今回の侍ジャパン投手陣では13分の8だった。中学時代に硬式野球(主にクラブチーム)ではなく、軟式(主に学校の部活動)でプレーしていた人数である。過半数を多いと思うか、少ないと感じるかは人それぞれだが、驚く数字ではない。過去の侍ジャパンでも、そうは変わらないはずだ。 当たり前だが、人選の際にその選手が中学時代にどちらだったかは関係ない。選んでみたらたまたま「13分の8」だったということだ。かといって「プロになりたければ中学生は軟式を選ぶべし」も極論だ。間違いなく言えるのは、投手にとって(今回の野手は15分の3)「軟式は不利ではない」ということ。それぞれにメリットはある。自身は軟式出身で、息子は硬式と軟式に分かれている吉見投手コーチはこんな考えを持つ。 「自分は軟式だったから良かった、悪かったはないですが、肩肘の故障リスクは(ボールが重い)硬式の方があるでしょうけど、どうしても軟式は指導者の知識は乏しくなりますよね」 軟式は教員の熱量が頼みになる。一方で硬式は用具代、送迎の負担が親にのしかかる。この日パーフェクト救援した才木、北山に10日先発の早川、そして清水も8人のうちの1人。入るつもりだった硬式クラブのグラウンドが、直前に「車で1時間30分かかる街に変わった」ことで取りやめた。しかし、藤沢中(埼玉県深谷市)で軟式に励んだ効果を、高校入学直後に実感した。 「軟球を挟むとつぶれちゃう。だからどうやっても落ちてくれなかったフォークが、硬式に変わった1球目で落ちたんですよ。あれはもう、軟式でてこずったからだと思ってます」 今もプロでメシを食えている決め球を、15歳で手に入れた。もし硬式クラブのグラウンドが移転していなかったら…。人生の分岐点は、どこにあるかわからない。日本で生まれ、世界では認知度の低い「軟式」は、侍投手陣を育む大切な土壌となっている。
中日スポーツ