『ガールズバンドクライ』を本気レビュー 仁菜は「うっせぇわ」の擬人化!? 「ガルクラ」が覇権アニメになった理由を考える
『ガールズバンドクライ』をレビュー:単なる老害問題ではない。人間の複雑さを描く花田脚本の凄さ
最後に「ガルクラ」の魅力として、単なる「老害問題」や「毒親問題」に陥っていないことにも触れておこうと思います。これは「ガルクラ」の脚本を担当している花田十輝氏の特徴でもあるのですが、劇中の人物のほぼ全員が人間的な複雑さを持っており、基本的にただ悪いことをするだけのシンプルな悪役は登場しません。 例えば、第4話にて本当はバンド活動をしたいすばるが、大女優の祖母に女優になる気が無いことを伝えようとする場面。凡庸な脚本なら「何言ってるの! 女優になるのよ、あなたは!」と祖母を悪者にして、すばるのことを仁菜と桃香が助けるという世代間対立(あるいは毒親問題)にしてしまうところですが「ガルクラ」ではそうなりません。 祖母が孫と共演するのが夢だったこと、すばるが女優を目指すと言った時に嬉しかったことなど、祖母のピュアな思いが語られ、逆に娘には女優の仕事を酷く嫌われていることを明かします。祖母はすばるに感謝しているとまで言っており、孫の前に立ち塞がる単なる悪役ではなく、娘や孫との複雑な関係を抱えた1人の人間として描かれています。 この点は仁菜の家族にも言えることです。教育者として有名な父親の下で育った仁菜は、家訓に従う生活やいじめの時に父親が味方になってくれなかったことなど、父親に対して鬱屈とした思いを抱えています。 しかし第10話で姉を通じて父の本音を知り、父と語り合う中で自分が愛されていることに気づきます。このシーンもバンド活動に反対するだけの父親として描いた方が簡単ではあります。しかし実際はそうなっておらず、父親の不器用な愛情表現が垣間見え、とても人間味のあるエピソードが展開されています。
『ガールズバンドクライ』をレビュー:「世代間の和解」がテーマの1つ。実はかなり大人な作品でもある
「ガルクラ」は序盤だけ見ると老害問題のように捉えられますが、回を追うごとに大人側の事情も語られ、親と子、祖母と孫、年寄りと若者で切り分けて、善と悪で対立させるような安易な物語には、まったくなっていないことが分かります。 現在世の中にあふれるコンテンツの中には、若者をZ世代と持ち上げながら上の世代を老害と非難したり、逆に「今どきの若者は」的な下の世代批判を行ったりと、世代間対立をあおるものが少なくありません。実際にお互い問うべき責任や問題はあるかと思いますが、だからと言ってどちらかの立場に立って、どっちが良い悪いと言い合っても、溝が深まることはあれど、なかなか解決しないのが現実でしょう。 「ガルクラ」では世代間対立をあおるのではなく、時間を掛けながらも互いに少しずつ歩み寄って和解したり、すばると祖母のように簡単に白黒つけるのではなくいったん回答を保留にしたりと、上の世代と下の世代で折り合いを付ける現実的なプロセスが描かれています。 善悪二元論に陥らず人間の複雑さを表現しながら、対立ではなくむしろ「世代間の和解」をテーマの1つに置いているようにも見えます。 途中で登場するライブハウスの支配人や、プロダクションのマネージャーなどどんな脇役にも癖の強さや個性、複雑さが設けられており、1人たりとも単に役割を演じさせられている空っぽな人間はいません。これは同じく花田氏が脚本を務めた『宇宙よりも遠い場所』と共通する特徴です。 このようにエンターテインメントとして楽しみつつ「ガルクラ」に独特な深みを感じるのは、人間の描き方が通り一遍でないからであり、単なる類型的なキャラが存在しないからだと言えます。「ガルクラ」が心を打つのは、現実を生きる私たちと同じように登場人物たちが複雑さを抱えており、それゆえにまるで実在するかのような説得力を放っているからなのかもしれません。
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