『ガールズバンドクライ』を本気レビュー 仁菜は「うっせぇわ」の擬人化!? 「ガルクラ」が覇権アニメになった理由を考える
『ガールズバンドクライ』をレビュー:「ガルクラ」「ぼざろ」に共通するホーム(居場所)が無い問題
「自分の居場所がどこかにあると信じているから。だから歌う」という「ガルクラ」のキャッチコピーがあるのですが、ここから「居場所の無さ」という問題意識が読み取れるかと思います。 居場所が無い問題に関しては「ガルクラ」だけでなく、2022年放送の『ぼっち・ざ・ろっく!』や、2023年放送の『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』など近年ヒットしている他のバンドアニメにも共通しているテーマで、いずれの作品も主人公はホーム(居場所)が無くやり場のない気持ちを抱えています。 この居場所の無さは現代の若者の感覚と対応するところがあります。例えば、こども家庭庁による令和5年の調査を見ると、15歳以下の3割以上が家や学校以外に「居場所が無い」と回答しており、16歳以上になると「居場所が無い」の回答は半数近くに及びます。 また居場所を失い誰かに頼りたくても頼れない状態を、匿名の相談窓口「あなたのいばしょチャット相談」を運営する大空幸星氏は「望まない孤独」という言葉で表現し、現代の社会問題として警鐘を鳴らしています。なぜこのような居場所の無さや孤独が生まれてしまったのか、その原因はさまざまで、核家族化の進行やコミュニティの崩壊、いじめ問題などいくつかの要素が複雑に絡み合っています。 ただ大きな流れとして言えるのは「ぼざろ」の記事でも触れましたが、2010年代のぼっちブーム及び自己責任論ブーム、2020年代のコロナ・ショックによる外出自粛などにより、多くの人が孤独な状態に追いやられてしまったという点は関係しているでしょう。 このように2020年代までに社会全体で「ぼっち」という悲劇をある程度共有していたからこそ、居場所の無さを扱った「ガルクラ」「ぼざろ」などの作品が現在共感を呼んでいるのだと思われます。
『ガールズバンドクライ』をレビュー:「居場所の無さ」をバンドという「疑似家族」でカバーする
ネットが発達した現代では部屋の中で自己完結した生き方ができる反面、人間関係を作るのが苦手になっているところがあり、いわゆる「コミュ障」を自称する若者も少なくありません。モノは充実している一方で、人とうまく関係を作れない「ルーム(部屋)はあるのに、ホーム(居場所)がない状態」に陥っている人は一定数いるものと推察されます。 こうした孤独と居場所の無さを抱えた現代人にとって、いじめと親子問題を抱える仁菜、仲間から裏切られた桃香、祖母の期待に応えようと過剰適応に苦しんでいるすばるなど、人知れずやり場のない気持ちを抱える人物を描く「ガルクラ」は他人事ではないのでしょう。 途中からバンドに加入するキーボードの智もかつてのバンド仲間との確執や親子関係の問題を抱えているようですし、ルパもハーフ特有の孤独感を持っており、メンバーそれぞれで事情は違うものの、孤独感や居場所の無さという点ではつながるところがあり、視聴者も同じように居場所が無くて寂しいという気持ちを共有させているのかもしれません。 特に第10話の「ワンダーフォーゲル」の回が象徴的で、仁菜にとってバンドのメンバーが第2の家族であり「ただいま」と言えるかけがえのない居場所になっていたことが分かります。こうしたバンド活動を通して、孤独な人物が本音で語り合えるある種の疑似家族を構築していく流れは「ガルクラ」「ぼざろ」「MyGO」に共通しているポイントです。 現実社会でも、20代から30代を中心にソーシャルアパートメントが人気を拡大させていたり、共同体によって財産を管理するコミュニズムの重要性などを説いた斎藤幸平氏の『人新世の「資本論』が50万部以上の大ベストセラーを記録したりと、家族とは別のコミュニティを作ろうとする機運が2020年以降強まっています。「ガルクラ」は孤独を自覚してサードプレイスを作ろうとする、こうした現実の感覚とつながるところもあるのかもしれません。 以上の点から「ガルクラ」は自意識過剰問題をロックで解消しつつ、居場所の無さ問題をバンドという疑似家族で補うという構造で作られていると考えられ、それゆえに生きづらさを抱えた現代の若者に刺さっているのだと推測されます。
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