出産時の真実…「出血」の量がヤバすぎる…「最高レベルの生育環境」の獲得と引きかえに生じた、母体の払う「衝撃的な犠牲」
生きものについて知ることは、自分自身を知ることであり、私たちを取り巻く生きものや環境の成り立ちやかかわりあいを知ることといえます。ところが、世の中では「生物学は面白くない」と思っている人が、意外に多いようです。身近なテーマなのに、難しい専門用語が散りばめられた解説は、生物学という世界を疎遠にしてしまっているのかもしれません。 【画像】「臓器の移植」に大問題…「キメラマウス」に共通する生命原則からの踏み外し 感染症の拡大や原発事故による拡散した放射性物質の挙動、地球温暖化、遺伝子組み換えによる作物や臓器提供のための動物など、現代の主要なトピックの多くが生物学と密接に関係しており、まさに現代人にとって必須の教養といえます。 そこで、生物学の基本から最新の話題まで、網羅的に解説した入門書『大人のための生物学の教科書』から、興味深いテーマ、読みどころをご紹介していきたいと思います。今回は、胎盤を軸に「哺乳類の出産」を見ていきます。 ※本記事は『大人のための生物学の教科書 最新の知識を本質的に理解する』を一部再編集の上、お送りいたします。
母体と胎児の血液型ちがっても問題ないわけ
胎児の血液と母体の血液が胎盤で直接触れ合ってしまうと、母親と胎児の血液型が異なっていた場合(ABO式血液型が母子で異なることはふつうにある)に免疫反応が起きてまずいことになる。 じつは、母体の血液は胎盤に開放した血管から絨毛間腔という空間にダダ洩れ状態であるが、胎児の血管は膜に包まれた状態で母親の血液に浸されていて、母子の血液が直接混ざることは避けられている。 この膜は小さな分子なら通すことができるが、大きな分子は通さない。ABO式血液型の違いを認識して凝集させる抗体は通常IgMという大きな分子の抗体なので、この膜を通ることはないのだ。 いっぽう、一般的な免疫応答の主力である抗体IgGは分子量が小さく、この膜を透過す るので母体の免疫機能の一部を胎児に付与することができる。母体から移行したIgGは、生後半年間ほど子の体内に残り、免疫機能が未熟な新生児の生体防御に大きく貢献する。 この母体と胎児を結ぶ「胎盤」はどのように生じ、どのようにその役目を果たすのだろうか。