『ガールズバンドクライ』を本気レビュー 仁菜は「うっせぇわ」の擬人化!? 「ガルクラ」が覇権アニメになった理由を考える
『ガールズバンドクライ』をレビュー:自意識過剰な状態を「ロック」の名の下に肯定してくれる優しさ
自己嫌悪と自己愛の行ったり来たりを繰り返す、非常に面倒くさい部分は仁菜と「うっせぇわ」に共通する要素と言えます。そう考えると仁菜は「うっせぇわ」を擬人化した姿と捉えることもできそうです。 ちなみに2022年に放送され社会現象化した『ぼっち・ざ・ろっく!』の「ぼっちちゃん」も自己卑下しがちなのに自己愛が強いという、上記と同じ性格的傾向を持っています。こうした曲やキャラクターが近年相次いで登場し人気を獲得していることから、自傷的自己愛は現代に一定程度共有されている感覚と言えるかもしれません。 また斎藤氏によると自傷的自己愛の「多くはいびつな親子関係や、思春期のいじめ体験が起源」とされており、仁菜は親子関係といじめ体験の両方に当てはまる、くしくもドンピシャな背景を持った人物でもあるのです。 「ガルクラ」が素晴らしいのは、こうした自傷的自己愛によって心の底に押し込められたやり場のない感情に「ロック」という名前を与えて、こじれた精神状態を肯定してくれる点です。 「仁菜は鬱屈してエネルギーがたまってる。それはまぎれもないロックだ」という第3話の桃香のセリフが象徴的でした。自己嫌悪と自己愛でグルグル回り、自意識過剰になって身動きが取れなくなっている仁菜にとって「ロック」という言葉は魂を解放してくれるものだったに違いありません。そしてそんなやり場のない気持ちをロックに変換して吐き出す仁菜の姿に自分を重ね、ある種の解放感を覚えた人も少なくないはずです。 自傷的自己愛の人はともすれば「メンヘラ」と呼ばれて避けられがちで、当の本人も自分で自分を責め続けて、孤独に陥ってしまうことがあります。しかし、「それはロックだ」とこじれた状態を肯定してくれる「ガルクラ」を見ることにより、自意識の檻の中で生きづらさを抱えていた視聴者の多くが救われたような気持ちになったのではないのでしょうか。 自傷的自己愛で毎日が息苦しい現代人の代表として仁菜を主人公に置き、自意識からの解放としてロックを位置付けている点が「ガルクラ」が今支持される理由の1つと言えそうです。
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