広ければいいもの?マイホームの理想と現実に直面して賃貸マンションに引っ越すまで【経験談】
漫画家のアベナオミさんは、4LDKのこだわりのマイホームを建てたものの、8年住んだ後に手放されたとのことです。ローンが払えなくなったから?災害で住めなくなったから?……いいえ、違います。自分たちに合っている住まいとはどのようなものか、トコトン向き合った結果、賃貸住宅に住み替えをしました。その過程を『賃貸か持ち家か? こだわりマイホームを手放して賃貸生活でお金も貯まりました』(KADOKAWA)に描いています。戸建て住宅の理想と現実のギャップ、家を手放すまでの経緯を伺いました。 <漫画>『賃貸か持ち家か? こだわりマイホームを手放して賃貸生活でお金も貯まりました』(KADOKAWA)より ■「家庭を持ったら持ち家に住むのが当たり前」という価値観 ――マイホームを建てた経緯を教えていただけますか? 宮城県の仙台市の郊外で生まれ育ったのですが、宮城県で都会的なのは仙台の中心部のみと言っていいくらい。そのエリアはマンションが中心で、賃貸も分譲もあるのですが、車で30分ほど移動した郊外は一軒家ばかりなんです。 地域的に「マイホームを建ててこそ一人前」という価値観があり、小さい頃から「結婚したら家を建てるのが当然」と思っていました。家族で賃貸に住んでいる人が少ないエリアで育ってきたので、賃貸に住んでいる人は「学生さんなど単身世帯」というイメージを持っていたくらいです。長男が小学校に上がる直前になると、周囲もザワザワして「そろそろ家を建てた方がいいのでは」という雰囲気があって、良くも悪くも流されました。 ――マイホームを建てるにあたって、こだわりを持たれていたことが描かれていました。 それまでTHE・日本家屋の和室か、オーソドックスな白い壁紙しか選択肢がなかったのですが、家を建てる頃にちょうどIKEA仙台がオープンしました。初めてカラフルな壁紙に出会って「なんてかわいいんだろう」と感動して、マネしてマイホームもエリアごとに壁紙を変えることに!!選ぶのはすごく楽しかったです。 ほかに広々としたリビング、水遊びや雪遊びができるような6畳分のバルコニー、自宅で花見をするために桜を植えた庭……など、こだわって4LDKで新築の注文住宅を建てました。 ■マイホームの理想と現実 ――こだわって理想の家を建てたものの、実際に住み始めたら、現実とのギャップに直面されたのですよね。 想像以上にメンテナンスに時間と労力がかかることが一番の衝撃でした。同じ持ち家であっても、実家に住んでいた頃は、母や祖母がメンテナンスをしてくれる中で快適に過ごしていたので、大変なイメージを持っていなかったんです。 いざ一人で維持管理していくとなると、掃除しなければいけない部分がたくさんあったり、庭の雑草はものすごい早さで生えてきたり、日々害虫との闘いであったり。吹き抜けの上の方のちょっとした段差に溜まった埃が一生取れないのかも気になりました。 ――宮城県なので、冬は寒いですよね。 広いリビングに憧れがあって、上限ギリギリの大きな家を建てたのですが、ものすごく寒かったです。 ある程度は寒さのことを考えてはいたものの、家を建てるときは盛り上がっていて、ちょっと軽く見ていた部分があったんです。単身向けのアパートやマンションに比べて、一軒家という、四方向が外気に接している建物はこんなに寒いのかと、ギャップに驚きました。 ――家の中での移動も大変そうです。 子どもが2階で寝ているときに、体調不良で呼んでもリビングにいる私になかなか声が届かなくて。私も子どもの様子を見に、何度も子どもの部屋に通うのが大変でしたし、子どもも喉がガラガラなのに、大きい声で私を呼ばなきゃいけないのも大変なので、結局はリビングに敷布団を敷いて、子どもはテレビを見ながらぬくぬくと過ごすことに。本来だったら隔離したいですが、難しい距離になってしまったのは、育児をしていくうえでの痛手でした。 建てるときは、「家が広くてもなんてことないだろう」と思っていたのですが、子育てしながら働く忙しい状況下で、一歩でも二歩でも移動を減らしたいところ。自分が思い描いた広さの家にしてしまったばかりに、移動距離が長くなり、体力がそぎ落とされる感覚でした。 それに時間の経過とともに、自分も年を取るので、家を建てた頃のテンションで動けなくなってきます。家を建てた頃は平気だった家の中の移動が、だんだんとつらくなって。少しでも労力を減らさないと体力が持たないと感じるようにもなりました。 もちろん一生住むつもりで建てたので、賃貸に引っ越す案が出るまでは、なんとかやっていこうとしていましたが、だんだんと違和感を覚えるようになっていました。 ■物を減らさないと子どもに苦労させてしまう ――その後、結果的に、賃貸への住み替えをされますが、その過程として、生前整理が一つのターニングポイントになっています。 夫の父が亡くなったとき、バタバタしているのを目の当たりにして、家を残すことで子どもが大変な思いをする可能性があることを考えるようになりました。 亡くなった人のものを片付けることは実家時代に何度か経験しているのですが、捨てていいかを聞けないことが大変で。どんな価値があるものなのか、どういう思い出があるのかを聞けず、どんどん処分しなくてはならなかったんです。これを子どもに経験させるのは酷かもしれないと思いました。 私たちの世代は、私の親世代よりもさらに物を持って生きていると思うので、より仕分けが大変になってしまう。そこで、まず不用品を手放すという生前整理を始めました。期限切れの食品やリビングに放置されたものなどを処分しましたし、母から何かのお祝いでもらった貴金属類でほとんどつけていないものは、現金化してみんなで使う口座に入れておくようにしました。 実はこっそり証券口座を作り、少しずつ積み立てをしていたのですが、もし私に突然何かがあったら、家族が対応に困ってしまうと思い、夫にも話して、整理しました。 ■夫婦でお金の話がしたいときは事前に予約を ――本書では、夫婦でお金の話し合いをしています。それまでお金の話をしようとすると、夫さんが「もっと自分が稼げれば……」とプレッシャーを感じていたことを描いていますが、その後、話し合いをしていくために、どんなことを大切にされましたか? 大きな支払いがあるときは、事前に「明日ちょっとお金の話がしたいんだよね」といったふうに予告するようにしています。最近ですと、長男が中学3年生で修学旅行があったのですが、旅費自体も結構な金額なうえ、学校から請求される費用のほかに色々と必要なものがあって。「どれくらいの予算で買うかを話し合いたい」と具体的に伝えました。 突然お金の話を振られると、夫は「なんで急にお金の話!?」「俺何か悪いことしたのかな…」とパニックになるみたいなんです。 ――夫さんにとって、お金の相談=自分が責められているという感覚なのでしょうか? 「嫌な話がきたな……」とはなると思うんです。でも予告しておくと心の準備ができるんじゃないかなって。以前は思いついたタイミングで「そういえば○○の支払いのことなんだけどさ」と話を振っていたのですが、夫からすると不意打ちで驚いて、険悪なムードになっていたんです。 私もお金の話が好きなわけではないんですよね。特に大きな支払いの話は「嫌だな……」と思っています。でも必要なことなので、コーヒーや紅茶とお菓子を準備して、ヒートアップしないような環境を整えてから話し合うようにしています。 そうした工夫をしないとケンカになってしまうのは、夫婦生活も長いのでわかってきていて。 相手の触れられたくないポイントや、へそを曲げる言い方もお互いにわかっていて、痛いポイントを踏まないようにすることで、夫婦関係が上手く回っていると感じます。 ※後編に続きます。 【プロフィール】 アベナオミ 宮城県出身・在住。日本デザイナー芸術学院仙台校でイラストを学ぶ。イラスト担当著書に『マンガでわかる! 妊娠出産はじめてBOOK』『子どもを叱りつける親は失格ですか? 』『わたしの心と体を守る本 マンガでわかる! 性と体の大切なこと』『料理は妻の仕事ですか?』(すべてKADOKAWA)、『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(学研プラス)など多数。東日本大震災を経験し、子育て世代の防災の大切さを伝える活動がライフワーク。2016年に防災士の資格を取得。2男1女の育児に毎日奮闘中。 インタビュー・文/雪代すみれ
雪代すみれ