<ウクライナ停戦合意> どこまでプーチン大統領の“思う壺”なのか? 国際政治学者・六辻彰二
停戦合意は13項目からなる
「ミンスクII」は、以下の13項目からなる合意です。 (1)2月15日0時をもっての全面的停戦、 (2)最低50キロ幅の緩衝地帯を設けるために相互に重火器を撤去すること、 (3)OSCEによる停戦監視、 (4)ドネツクとルガンスクでの地方選挙の実施に関する協議を開始し、特別な地位を与える領域をウクライナ議会が法的に確定すること、 (5)ドネツク、ルガンスクでの行為に関する法的責任の免除、 (6)相互に囚われている捕虜全員の交換、 (7)これらの地域における人道的支援、 (8)これらの地域における、年金支給を含む、社会経済的な結びつきの整備、 (9)2015年末までに地方選挙と対立の政治解決を行った後、ウクライナ政府が紛争地帯の国境を管理すること、 (10)外国の武装集団の撤退と、違法な武装集団の武装解除、 (11)2015年末までに地方分権を定めた憲法改正を行い、ドネツク、ルガンスクに特別な地位を保障する恒久法を定めること、 (12)地方選挙に関する問題は、三者コンタクト・グループ(ウクライナ、ロシア、OSCE)の枠組みの中でドネツク、ルガンスクの代表者と協議のうえ決定され、選挙はOSCEの監視下で行われること、 (13)合意実施に向けて三者コンタクト・グループの活動を強化すること。
4か国首脳それぞれの思惑
「ミンスクII」の内容は、2014年9月の「ミンスクI」とほとんど同じで、停戦を維持しながら、国境を変更せず、ウクライナが連邦制の導入を含めた地方分権を行う方向性は、かねてからのロシアの主張に沿ったものです。その意味で、ロシアにとって失うものは何もありません。 それに対して、ポロシェンコ大統領はEUやNATOへの加盟を目指し、ロシアや親ロシア派と対立してきました。高度な自治権をドネツクなどに認めればロシアの影響力が残るため、連邦制の導入には一貫して消極的でした。したがって、ウクライナ政府からみて「ミンスクII」は不満の残るもので、これ以上の戦闘を回避するための妥協といえます。 親欧米派をバックアップしてウクライナをEU圏に組み込もうとしてきた欧米諸国からみても、ほぼ同様です。なかでも米国からすると、この合意で状況が安定すれば、NATO加盟国でもないウクライナをめぐって、これ以上ロシアとの緊張をエスカレートさせなくて済む一方、あからさまに軍事力を背景とするロシアのシナリオ通りに進むことは、超大国としての影響力の低下を国際的に印象付けることにもなります。