「まさか、経営理念がない企業がこんなに多いとは」 将来予測が立たない時代、数字の見通しより「パーパス」が重要に
◆軸がなければ、事業の承継・再構築がブレる
――経営における理念の重要性はどんなところにあるとお考えですか? 新型コロナウイルス禍によって将来の予測が立たないVUCA(ブーカ)時代になったといわれます。 会社経営の方針を立てようにも、数字的な見通しを立てにくくなりました。 だからこそ、ずっと残る経営の軸として、理念の重要性が高まっています。 私は理念経営には以前から注力していましたが、パーパスという言葉を使うようになったのはここ2年くらいです。 コロナ禍で改めて理念を勉強したとき、大手企業がパーパスという言葉を使うのをよく耳にするようになったのがきっかけです。 コロナ禍では、国が「事業再構築」の支援を打ち出しました。 ポストコロナを見据え、新分野への事業転換・再編を後押しするというものです。 しかし、中小企業が何でも手を出すと、事業が雑多になって収拾が付かなくなってしまいます。 事業を再構築するためにも、改めて経営理念を見直して、新しく始める事業を組み立てるべきです。 ――確かに、会社として大きな軸があればブレれずに事業を多角化できると思います。 コロナ禍では、私は「跡継ぎ支援」にも取り組みました。 跡継ぎの方々と会っていると、「親の理念やビジョンをいかに引き継ぐか?」「新たに自分たちが理念をつくるべきか?」といった課題にぶつかっていました。 VUCAの時代に対応し、事業再構築や事業承継を進めていくためには、理念・パーパスが必要だと思います。 ただし、「古くからの理念」と「新しいパーパス」にはつくり方や実践の仕方に大きな違いがあります。
◆経営者が考える「理念」、社員みんなで創っていく「新しいパーパス」
――どのような違いですか? 経営理念は、経営者が自分で考えて、自分の会社のためにつくるのが一般的です。 それを従業員に浸透させる流れです。 一方、パーパスは、経営者が社員、場合によってはもっと広くステークホルダーと一緒に作り上げるものです。 経営者が1人で考えるのではなくて、会社全体の思いを反映させるように変わってきたのが「新しいパーパス」だと思います。 ――全社員参加ですか? できれば全社員でつくるといいと思います。 規模が大きな企業ならグループ分けが必要ですが、20~30人の中小企業なら全社員参加のミーティングを開けます。 たとえば、商工中金は2022年3月、経営層や現場社員が一丸となってパーパスを制定しました。 ワークショップには4000人以上が参加したそうです。 ――どのようにパーパスを創っていくのでしょうか。 まずは現行の経営理念・ビジョンを再理解して、経営資源や課題を棚卸しします。 それらを踏まえて、30年後、40年後、自分たちの会社はどのようになっているべきか、全員の意見を吸い上げて、パーパスにまとめていきます。 社員を巻き込むワークショップ形式でつくれば、押しつけなくても自然に浸透しているというメリットも大きいですね。
■プロフィール
やまぐち総合研究所有限会社 取締役所長 中村伸一 1965年、山口県山口市に生まれる。九州産業大学卒業後、中国松下システム(株)に入社。友人3名とIT関連事業を行うキャスト(株)を設立。取締役として2年、代表取締役を5年間つとめる。2005年、やまぐち総合研究所有限会社を設立。企業の事業づくりを支援する達人として、コラボレーションを事業創造の中心に考え、「ワクワクコラボレーション」を商標登録して「ワクワク」する事業創造の支援をしている。