斎藤元彦はなぜ再選されたのか 「情報の空白」期、立花孝志参戦後に起こっていたこと【2024年を振り返る】
2024年兵庫県知事選には、さまざまな争点がありました。パワハラやおねだりはあったのか、公益通報者保護法違反の疑い、百条委員会の調査は適正か、そして、選挙後も続く公職選挙法違反の疑い――。しかし、選挙の流れを決定づけたのは、個々の争点というよりもSNSや動画など「ソーシャルメディア」の威力でした。そして、マスメディアは選挙後もその結果に苦悩しています。 ■ソーシャルメディアが変えた選挙の「語り口」とは 今回の選挙はもともと、パワハラなどの疑惑や告発者を調査し、処分を出した後に告発者が自殺したことで、斎藤元彦・兵庫県知事への批判が高まり、県議会が不信任決議を全会一致で可決したことによるものでした。 テレビは連日、「パワハラ・おねだり疑惑」「公益通報者保護法違反疑い」など斎藤知事を批判的に取り上げ、神戸新聞社とJX通信社の7月の世論調査では支持率は15.2%。斎藤氏の再選は不可能とみられていました。 しかし、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏の参戦で状況は変わります。「自分の当選は考えていない。選挙運動をしながら、合法的に斎藤氏をサポートをしたい」と述べて立候補した立花氏は「職員の自殺は不倫をバラされるのが嫌だったから」「斎藤知事はパワハラなど」していない」など、選挙演説や自身のYouTubeで繰り返しました。 パワハラなどの疑惑を調査する兵庫県議会の百条委員会は都合の悪いデータを隠している。斎藤知事をおとしめるためで、メディアも一役買っている。立花氏の主張は「マスメディアを含む既得権益層VSおとしめられた斎藤知事をソーシャルメディアで支える我々」という構図になっていました。 2024年11月14日配信の立花氏による動画「テレビとネットの戦い 正義vs悪 真実vsデマ 正直者がバカみない日本へ兵庫県知事選挙」がそれを顕著に示しています。これらの動画は本人のアカウントだけでなく、引用されたり、ショート動画に転用されたりして拡散しました。 「パワハラ・おねだりをし、告発者を自殺に追い込んだ斎藤前知事」から「無実の罪を着せられた斎藤知事」へ。ソーシャルメディア上での選挙の語られ方は急激に変化していきました。ある物語がどのように語られるのか。これを「ナラティブ」といいます。直訳では「物語」ですが、たんなる事実の羅列の「ストーリー」ではなく、そこに物語の話者の視点が加わります。 ソーシャルメディアで、それまでの新聞やテレビになかった「ナラティブ」を見聞きした人たちは、この新しい語り口を受け入れていきました。