「宇宙が1つって、誰が決めた?」多様な世界の仮定から生まれた無数の宇宙の存在
星や生命は、ラッキーな宇宙にのみ存在し得る
ワインバーグが考えたのは、異なる真空のエネルギー値を持ったたくさんの「宇宙たち」が存在するという状況でした。そしてワインバーグは、これらの真空のエネルギー値が違った宇宙では何が起こるのかを考えてみたのです。 彼が得た結論は、もし真空のエネルギー密度が私たちの宇宙の現在の物質のエネルギー密度である10⁻³⁰g/cm³より数桁以上大きかったならば、そのような宇宙には銀河、星をはじめとするあらゆる構造が存在し得ないということでした。 より正確に言えば、もし宇宙に構造が進化するのに十分な時間が経つ前に真空のエネルギーが宇宙の支配的なエネルギーになり、そしてそれがそのまま続いたとすると、そのような宇宙には意義ある構造は一切生じないということです。これは何を意味するのでしょうか? ワインバーグは、真空のエネルギー密度が量子力学により大きな補正を受けるという理論的な結論は正しいと考えました。つまり、物理学者がいくら探しても見つからない未知のメカニズムが存在してそれが補正を抑えている、などということはないと考えたのです。 もしそうであるならば、異なる宇宙たちの持つ真空のエネルギー密度の典型的な大きさは、理論で示唆される自然な大きさ、つまり現在私たちが観測している物質のエネルギー密度よりも120桁ほど大きいサイズであろうと考えられます。 より正確には、これらの異なる宇宙たちの真空のエネルギー密度の値は、マイナス10⁹⁰g/cm³からプラス10⁹⁰g/cm³までの間のランダムな値を取ると考えられます。これは、これらの宇宙たちのほとんどには何ら構造が存在しないことを意味します。 しかし、もし異なる宇宙の種類が10¹²⁰以上あれば、その中のいくつかの宇宙はたまたま小さい真空のエネルギー密度、すなわちその内部に構造が生まれ得る範囲の真空のエネルギー密度を持つだろうと考えられます。 なぜなら、真空のエネルギー密度がそのような範囲におさまる確率が10⁻¹²⁰と極めて小さかったとしても、宇宙の種類が10¹²⁰以上、たとえば10¹³⁰あったとすれば、そのうち約10¹³⁰×10⁻¹²⁰=10¹⁰=10000000000種類の宇宙は、構造が許される程度に小さい真空のエネルギー密度を持つだろうからです。そして、銀河や星、生命といった構造はこのような「ラッキーな」宇宙にのみ生じ得るのです。 これは逆に言えば、もし宇宙に知的生命体が現れて真空のエネルギー密度を測定したならば、彼らは必ず理論の自然な値より120桁ほど小さい値を観測するということを意味します。なぜなら、そうでなければ彼ら自身が存在しないからです。