小児救急病院、小児科のみで3億円以上の赤字で病院経営を圧迫-子どもも医師も守るためにできることは
◇小児・新生児科医療 重要性は認識も「経営における問題」
厚労省の2017年度病床機能報告によると、平均病床稼働率は97.4%である。しかし、今回調査を行った8施設の小児科病棟の平均病床稼働率は、新型コロナ流行前の2019年度でも69.3%だった。感染症対策の徹底により入院患者が激減した2020年度はわずか47.9%、2021年度もその余波が残り52.8%だった。また、配置されている小児科医・新生児科医は平均14.85人だった。2019~21年度の小児科に限定した原価計算では、計30調査ポイントのうち実に27調査ポイント(90%)で赤字だった。原価計算の8施設平均は1.91億円、中央値は2.03憶円の赤字で、特に2020年度には4施設が3億円以上の赤字を計上していた。収益に占める人件費率は64~70%で、小児科・新生児科の低い収益性と大きな人件費が病院経営の負担になっていることが分かった。 調査を行った8施設の病院長からは「小児・新生児医療は政策医療としての地域サービス、社会的評価や地域からの信頼を得るものなどと重要性を認識しているものの、現在そして将来も病院経営における問題である。赤字改善のためには、小児入院管理料の増額などの公的支援の強化、国や自治体からの補助金の増額が必要だ」との意見が挙がった。
◇打ち手は「小児入院管理料の増額」
小児救急医療を持続していくためには、小児科の入院医療の採算性を改善するしかない。伊藤秀一主任教授は現実的な方策として小児入院管理料の加点を提案する。新型コロナの影響をもっとも受けた2020年度は例外として除外しても、2019年度、2021年度の赤字を解消するには、入院患者1人/日あたり単純計算で各1875点、2087点の加算が必要だ。「近年、在宅酸素、人工呼吸器管理、胃ろうなどを必要とする医療的ケア児や発達障害児が増加し、看護ケアの負担などが増加していることを加味すると、現在の小児入院管理料をそれぞれ2000~3000点引き上げることが妥当であろう」と述べる。診療報酬は1点10円として計算されるため、各2万円、3万円程度の増額となる。 伊藤秀一主任教授は「今後、出生数の更なる低下、小児の疾患構造の変化、医師の働き方改革の開始などにより、小児科・新生児科の入院医療の採算性はさらに厳しさを増すであろう。このままでは小児の救急入院機能を維持できなくなる施設が出現し、集約化されている小児救急医療体制が破たんする地域が発生することが懸念される。急激な人口減少の局面を迎えているわが国において、子育て世代を支援する政策は重要であり、国や自治体がより強力に小児科・新生児科の入院医療を経営面から支援する体制を早急に構築してほしい」とコメントした。
◇調査方法
横浜市の小児二次救急拠点病院6施設と横浜市の隣接2都市の小児二次救急拠点病院を対象に、2019年度から2021年度の小児科・新生児科の施設情報、診療情報、原価計算情報などを収集し、経営状態を解析した。さらに、2023年に各施設の病院長を対象に、自院および小児科・新生児科の経営状況と今後の見通しについてアンケートを実施した。
メディカルノート