『ホンダ・シビック・タイプR(スーパー耐久/1998年)』無敵GT-Rの連勝を止めた小さなタイプR【忘れがたき銘車たち】
モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツwebがコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介していきます。今回のテーマは、1998年の十勝24時間レースを戦ったEK9型の『ホンダ・シビック・タイプR』です。 【写真】1998年にTIサーキット英田で開催されたTI400kmスーパー耐久レースを戦ったギャザズ・ドライダー・シビック * * * * * * 2024年から日本最高峰のツーリングカーレースであるスーパーGTのGT500クラスにおけるホンダ陣営のベースマシンとなったシビック・タイプR。 2022年より発売されているFL5型のシビック・タイプRは、ハイパワーのターボエンジンを搭載し、ホンダのフラッグシップの座に君臨している。しかし、かつての初代モデル(EK9型)は、自然吸気(NA)エンジンを積むコンパクトスポーツカーの代名詞的存在であった。 6代目シビックをベースに開発され、1997年より販売開始したEK9型のシビック・タイプRは、市販車の時点で驚異的なスペックを保持していた一台だ。過給機なしの1.6リッターという小排気量でありながら185馬力を絞り出すエンジンを軽量化した車体へ積んだモデルであった。 そんな高いポテンシャルを持つシビック・タイプRだから、すぐにモータースポーツへと投入されたのも当然の流れだった。1998年よりスーパー耐久シリーズへも参戦し、クラスチャンピオンを獲得するばかりか、シビック・タイプRはシリーズのある一戦で、歴史に残る偉業を成し遂げることになる。 その舞台となったのは、北海道の十勝スピードウェイにて行われた十勝24時間レースだった。 当時のスーパー耐久は、主に排気量別に4つのクラスに分けられており、シビック・タイプRは1600cc以下が対象のもっとも下のクラスであるクラス4において、ニッサン・パルサーなどのライバル車としのぎを削っていた。 その一方で、3500cc以下が対象の最高峰クラスであるクラス1は、BCNR33型ニッサン・スカイラインGT-R(R33 GT-R)が支配しており、毎戦R33 GT-R勢によって総合優勝が争われていた。R33 GT-Rの独壇場は、1998年時点でも長く続き、十勝24時間レースの前戦TIサーキット英田(現・岡山国際サーキット)のラウンドでは、BNR32型時代から続く連勝記録を50連勝に伸ばしたばかりだった。 下位クラスに属するシビック・タイプRが、通常のラウンドで総合優勝争いに絡むことはまずない。しかし、24時間という長丁場によって、いつも違うことが起こった。 この一戦で主役となったのは、シビック・タイプR勢のなかでもギャザズ・ドライダー・シビック』を名乗った一台だ。このマシンをドライブしたのは、当時ワンメイクレース等で名を挙げていた山本泰吉、全日本ロードレース選手権のチャンピオン獲得経験を持っていた辻本聡というレギュラーメンバーに、ホンダの社内クラブであるチームヤマトの一員で、シビックのワンメイクレース“シビックインターカップ”のトップランカーだった嶋村馨が助っ人に加わった3名だった。 山本、辻本、嶋村がドライブしたドライダー・シビックは、予選でクラス4のポールポジションを獲得。それでもクラス1のR33 GT-Rからは10秒以上、ひとつ下であるクラス2に属する三菱・ランサー・エボリューションVと比べても8秒程度、予選のベストタイムでは遅れをとっていた。 そして、迎えた24時間の決勝レース。速さでは敵うはずもないドライダー・シビックは、ピット滞在時間の短さで格上の車両に応戦した。24時間でピットに滞在した時間はわずか約20分、ピットストップ回数も8回という少なさに抑えた。 これはトラブルに苦しんだクラス1のR33 GT-Rよりも大幅に短かった上に、GT-R勢に代わってスーパー耐久勢の総合優勝を狙えるはずだったクラス2のランサー・エボリューション勢のトップと比較しても20分以上短い時間でピット作業を済ませていた。 ほぼトラブルフリーの信頼性の高さに加えて、極端なコントロールをせずに24時間を戦ったペースのよさも功を奏して、山本、辻本、嶋村のドライダー・シビックは、スーパー耐久車両勢のトップで24時間レースのチェッカーを受けた。 それだけでなくドライダー・シビックは全車総合の順位でも4位に入っていた。シビックの上にいる3台は、全日本GT選手権車両に準ずるGTクラスのトヨタ・スープラとポルシェだけだった。 こうしてGT-Rに立ちはだかり、スーパー耐久での連勝記録を止めたのは、直近の格下クラスであるランサーでもなく、もっとも小排気量クラスに属するシビック・タイプRだったのだ。 [オートスポーツweb 2025年01月07日]