富士通の中期経営計画折り返し、決算で見えた幾つもの「転換点」
2つめの転換点は、モダナイゼーション事業である。今回の決算発表では、モダナイゼーション事業の上期売上収益が公表され、前年同期69.0%増の828億円と、高成長ぶりが示された。同社にとってこの事業は、大きく成長するビジネスであることが実績をもとに明確に示されたのが今回の上期決算だ。 モダナイゼーション市場は、2020年代後半までの長期間にわたりITサービス市場全体を大きく上回る成長が見込まれ、いよいよその動きが顕在化してきた格好だ。 富士通も、モダナイゼーション事業(Uvanceとの重複分やハードウェアを除く)の2024年度通期見通しでの売上収益を前年比68.8%増の2000億円と見込んでおり、2025年度も引き続き成長を目指す計画を明らかにしている。 磯部氏は、「ナレッジの蓄積、自動化の取り組みなどにより採算性をさらに向上させていきたい。また、モダナイゼーションを通じて、DX、SX(Sustainability Transformation)のビジネスへとつなげていきたい」とする。 そして、事業ポートフォリオの変革に向けて、人材ポートフォリオ変革を加速し、その具体的な施策として、「セルフプロデュース支援制度」の拡充に踏み出したことも転換点の一つだといえる。 富士通が実施したセルフプロデュース支援制度の拡充は、間接部門の幹部社員を対象に、2024年10月末までの期間限定で募集を行い、割増退職金の特別加算、再就職支援を実施するというものだ。人員規模については明らかにはしていない。 磯部氏は、「より成長力を持った事業ポートフォリオへ変革するには、最適な人材ポートフォリオが必要。外部転身支援は、従来も制度として存在はしていたが、事業ポートフォリオの変革スピードがかなり速くなってきたことで、人材ポートフォリオの変革スピードも早めなくてはならず、セルフプロデュース支援制度を拡充した。追加施策も果敢に実行していく」と語る。 より踏み込んだ人材ポートフォリオ変革を展開し始めたことも、転換点といえるだろうだ。さらに、転換点という意味でもう一つ付け加えると、下期偏重型のビジネスモデルが変化してきたことが挙げられる。 特に下期偏重が強かった調整後営業利益の指標では、2023年度上期の進ちょく率17.9%に対し、2024年度上期は年間見通しに対して24.1%にまで改善している。それでも4分の3が下期に偏重しているとも言えるが、わずか1年で6.2ポイントも上昇した。 また、サービスソリューションだけを見てみると、2023年度上期の進ちょく率26.7%に対して、2024年度は31.7%と3割を超えている。「少しずつだが、利益進ちょくの状況が改善している」(磯部氏) こうした幾つかの転換点と言える取り組みを下支えしているのが、旺盛な受注状況だ。 2024年度上期の国内サービスソリューションの受注は、前年同期比1%減だが、分野別では、エンタープライズ(産業、流通、小売)が前年同期比3%増、ファイナンス(金融・保険)が同9%増、ミッションクリティカル(ミッションクリティカル、ナショナルセキュリティなど)が同11%増と高水準になっている。 エンタープライズでは、DXやSX、基幹システムのモダナイゼーション案件が継続的に拡大し、モビリティーや製造、流通などの幅広い範囲で活発な受注を獲得。金融機関向け基幹業務システムの大型更改商談も複数獲得しているという。また、ミッションクリティカルでは、基幹システム更改などの複数の大型商談を獲得しており、下期についてもナショナルセキュリティを中心に複数の大型案件の獲得を見込んでいるという。 分野別では、唯一パブリック&ヘルスケア(官公庁、自治体、医療)が前年同期比10%減だったが、前年度上期に公共で複数年契約の大型案件の獲得があった反動になるとする。ただし、複数年での商談を獲得しているということは、継続的なビジネスが進行していると捉えることもできるだろう。 磯部氏は、「前年度上期の受注が高水準にあったが、今年度の上期もそれと同等水準を維持している。受注残高は堅調に積み上がっており、商談の拡大トレンドが続き、増収基調を継続できている」とする。 むしろ同氏が懸念事項として挙げるのがリソース不足だ。特に自治体システム標準化については、「安定品質を確保しながら、標準化対応に必要なシステムエンジニアのリソースを充足させることが難しい状況にある」と話し、人材獲得が喫緊の課題だ。 一方で、高度人材の獲得についても投資を加速する考えだ。磯部氏は、不十分だったコンサルティング人材の獲得に「下期は投資していきたい」と語る。これも転換点の一つだ。 こうしてみると、2024年度上期は、富士通の成長戦略において幾つかの転換点を迎えるタイミングだった。ギアーを一段入れ替えるという富士通の意思が感じられる上期決算の内容だった。