即位行事の「温かい祝福の声」に感謝 天皇陛下60歳会見(全文)
「もう還暦ではなく、まだ還暦」という思い
記者:ここからは、産経新聞のイトウコウイチロウより質問をさせていただきます。政府は、「立皇嗣の礼」終了後、安定的な皇位継承に向けた課題の検討を始めます。陛下の即位により、皇位継承資格を有する皇族は3人となりました。公的活動を担うことができる皇族は、高齢化や結婚によって減少しています。陛下は皇室の現状をどのように認識されていますか。また、退位による皇位継承の意義と、象徴天皇の務めが安定的に続いていくために、望ましい皇位継承のあり方をどのようにお考えですか。代替わり後、皇嗣の秋篠宮さまとは皇室の課題や将来についてどのように話し合われていますか。 天皇陛下:現在、男性皇族の数が減り、高齢化が進んでいること、女性皇族は結婚により皇籍を離脱すること、といった事情により、公的活動を担うことができる皇族は以前に比べ減少してきております。そして、そのことは皇室の将来とも関係する問題です。ただ、制度に関わる事項については、私から言及することは控えたいと思います。秋篠宮とは折にふれ、いろいろな話をいたしますが、内容について言及することは控えたいと思います。 記者:陛下は、近代でもっとも高齢で即位し、還暦を迎えられました。これまでの60年の人生を振り返り、特に印象に残っている出来事と、率直なお気持ちをお聞かせください。また、この一年で印象に残った出来事や、今年開催される東京オリンピック・パラリンピックに期待されることをあわせてお聞かせください。 天皇陛下:即位の年齢については、歴代天皇の中ではより高齢で即位された天皇もおられますが、還暦を迎えるのにあたっては、もう還暦ではなく、まだ還暦、という思いでおります。 これまでの60年を振り返ってみますと、幼少時の記憶として昭和39年の東京オリンピックや、昭和45年の大阪万国博覧会があります。私にとって、東京オリンピックは初めての世界との出会いであり、大阪万博は、世界との初めての触れ合いの場であったと感じております。東京オリンピックでは、私は当時、皇太子、皇太子妃であった上皇、上皇后両陛下とご一緒にマラソン競技と馬術競技、そして閉会式に出席しました。断片的な記憶ではありますが、マラソン競技で一生懸命に走っていた円谷選手が競技場内で英国のヒートリー選手に追い抜かれ、銅メダルを獲得したこと。そして、閉会式において各国選手団が国ごとではなく、混ざり合って仲良く行進する姿を目の当たりにすることができたことは、変わらず持ち続けている世界の平和を切に願う気持ちの元となっているのかもしれないと思っております。 大阪万博では、日本のパビリオンはもとより、外国のパビリオンも多数回り、世界にはこんなにも多くの国があり、一つひとつの国がさまざまな特色を持っているのだということを目の当たりにしました。 成年に達してからの大切な記憶として、まず思い起こすことは、オックスフォード大学への留学です。一人の留学生として、日本にいる時より自由に行動でき、その中でさまざまな人との交流を重ね、イギリス社会を内側から見つめるとともに、外からより客観的に日本を見る視点を養うことができたこと、そして、研究生活を通じ、水問題への関心の一つの端緒となった研究論文に取り組むことができたことなど、現在の公務に取り組む姿勢にも大きな影響を与えている数々の貴重な経験をさせていただきました。このような機会を与えてくださった上皇、上皇后両陛下にあらためて感謝申し上げたいと思います。 平成になり、皇太子となって平成5年に結婚し、雅子と二人で支え合いながらいろいろなことを経験することができたこと、そして、愛子も産まれたことは本当にうれしいことでした。親として愛子の成長を見守ってくることができたことも喜びでした。 その一方で、平成7年の阪神淡路大震災や、平成23年の東日本大震災をはじめとする数々の災害による被害の大きさが、忘れることのできない記憶として脳裏に焼き付いております。同時に、大勢の被災者の方々が、大きな被害を受けながらも助け合いながら、また海外も含め周囲の多くの人々による支援に支えられながら、多くの苦難を乗り越えてこられた姿が深く心に残っています。 自然災害が起きることが避けられないとすれば、その被害が小さくなるよう、出来る限り日ごろから防災、減災の意識を持って取り組みを心がけることが重要なことではないかと思います。昨年も残念ながら、台風19号をはじめとする台風、大雨などの自然災害により、多くの方が亡くなられ、また家屋の損傷なども含め、大きな被害が生じたことは心の痛むことでした。昨年12月には、特に人的被害の大きかった宮城県、福島県を雅子とともに訪問しましたが、寒さが厳しい中、不自由な避難生活を送らなければならない方々のことを思うと、今なお胸が痛みますし、避難生活をされる方々を支えたり、災害復旧にあたったりしている関係者の皆さんも大変な苦労をされていると思います。