14人目までもつれ込むPK戦は「2度の窮地」を乗り切った札幌大谷に軍配!初出場の寒川は全国1勝にあと一歩届かず
[12.29 選手権1回戦 札幌大谷高 1-1 PK12-11 寒川高 柏の葉] 「PK戦でもウチが2回外していますし、ゲームの展開的にもロスタイムに追い付かれてPKに入っているので、あの時点で負けてもおかしくない中で、ちょっとだけウチに運があったかなと思いますね」(札幌大谷高・清水隆行監督) 【写真】「美しすぎ」「めっちゃ可愛い」柴崎岳の妻・真野恵里菜さんがプライベートショット披露 14人目までもつれ込んだPK戦を制して、執念の初戦突破!第103回全国高校サッカー選手権は29日、各地で1回戦を行い、県立柏の葉公園総合競技場の第2試合では札幌大谷高(北海道)と寒川高(香川)が対峙。1-1で迎えたPK戦も白熱の展開をたどった中で、札幌大谷が12-11で勝ち切った。31日の2回戦ではプレミアリーグ王者の大津高(熊本)と対戦する。 やや双方に初戦の硬さも見られる中、先に勢いを持って立ち上がったのは初出場の寒川。前線のFW冨澤快斗(3年)とMF田北海翔(3年)をシンプルに使いつつ、徐々に右のMF北井塁(3年)、左のMF三笠大地(3年)の両翼がハイサイドへと侵入。そこからDF稲谷優人(2年)のロングスローも交えて、相手ゴール前に迫るシーンを創出する。 ただ、10分過ぎから札幌大谷もドイスボランチを組むMF笹修大(3年、今治内定)とMF斎藤匡汰(3年)がボールを落ち着かせると、こちらも両サイドの推進力が攻撃のアクセントに。14分にはDF森詩音(3年)が右サイドを切り裂き、上げたクロスは流れたものの、左からDF瀬山晴也(3年)が入れ直した軌道に、FW遠藤煌太(2年)が合わせたヘディングはわずかにクロスバーの上へ。19分にも笹の浮き球パスを遠藤が収め、左から切れ込んだFW田村佑太(3年)が2人のマーカーを外して枠内へ放ったシュートは、寒川GK谷山英悟(3年)にキャッチされたものの、漂わせる得点の香り。 押し込まれる展開を強いられた寒川が、一瞬で突き付けた鋭いカウンターの脅威。26分。中盤で三笠がボールを拾い、この日はボランチ起用となったキャプテンのMF伊藤瑛規(3年)が中央を運んでスルーパス。走った三笠のシュートは懸命に飛び込んだ森のブロックに遭い、ゴールには至らなかったものの、岡田勝監督も言及した「伊藤からの球出しでの得点、高速カウンターを狙いに行っていました」というシーンを体現。前半はスコアレスで40分間が終了する。 後半はスタートから札幌大谷が2枚代え。MF松本陽翔(3年)とFW簗詰夕喜(3年)をピッチへ送り込み、ギアチェンジを図ると、4分には決定機。笹が相手のクリアを体に当て、こぼれ球をさらった簗詰はGKと1対1に。ここは谷山がビッグセーブで凌ぐも、アクセルを踏み込んだチームは9分後に歓喜を引き寄せる。 13分。MF曽我部修羽(3年)、松本と回ったボールから、瀬山は完璧な左クロスを中央へ。「自分より前にディフェンスの選手がいたんですけど、その人より前に入ったら、相手は触れないと思って」ニアへ飛び込んだFW真浦劉(3年)のヘディングは、右スミのゴールネットへ鮮やかに吸い込まれる。「この3年間を振り返ってもベストゴール」だという11番の華麗な先制弾。札幌大谷が1点のアドバンテージを手にする。 以降の札幌大谷に2点目を奪うチャンスは幾度もあった。30分には松本のパスから途中出場のDF今井朝陽(2年)が、34分には今井のお膳立てで簗詰が、38分にも松本のFKからDF大石蓮斗(2年)が、いずれも決定的なシュートを打ち込むも、そのすべてを谷山がファインセーブ。守護神、躍動。寒川は首の皮1枚で何とか踏みとどまる。 「決定機を4,5回作られていたのに、『決められたかな』というところを谷山が止めたり、ディフェンスに当たったりしていたので、ベンチの中では『これは来るぞ』と話していました」(岡田監督) 40+1分。右サイドで奪った寒川のスローイン。稲谷が渾身の力を込めて投げ入れたボールは、十分な飛距離でエリア内へ。弾んだボールはその行き先に、4分前に投入されたばかりのDF藤原康騎(2年)を選ぶ。右足一閃。揺れたゴールネット。「僕たちは負けていても前に、前に進んでいけるチーム。点を獲られても『逆転するぞ』という強い気持ちがあったので、追い付けたんだと思います」(伊藤)。1-1。勝敗の行方はPK戦へと委ねられる。 「もうPKになったらそれぞれがその場を楽しむというか、『PKだからネガティブになるのではなくて、しっかりそれぞれがこの緊張感を楽しもう』と送り出しました」(清水監督)「『勝ちたい気持ちがあるヤツから行こうか』ということで、最終的には伊藤が順番を決めました。トレーニングの中ではPK戦の結果が出ていたところもあったので、あとは谷山を信じていました」(岡田監督) 外さない。まったく外さない。5人目が終わった段階で、両チームの全員が成功。PK戦になっても双方まったく譲らず。サドンデスに突入後も、札幌大谷は6人目の大石が1分近く間合いを取ってスタンドをざわつかせれば、7人目のGK高路地琉葦(3年)はパネンカを成功させるなど、極限の中で選手たちが楽しむ姿勢を存分に披露する。 均衡が破れたのは8人目。先攻の札幌大谷のキックはクロスバーの上へ。この日初めての失敗。だが、決めれば勝利となる寒川のキックも枠の上へ消えていく。11人目。札幌大谷は今井が、寒川はGKの谷山が気合で成功。白熱のPK戦は2巡目へと突入する。 12人目。札幌大谷のキッカーが左へ蹴り込んだボールは、谷山が横っ飛びでビッグセーブ。ところが、勝利の懸かった寒川のPKは、再びクロスバーを越えていく。14人目。札幌大谷のキッカーはGKの逆を突いて成功。寒川のキッカーが蹴り込んだボールは、左のポストに弾かれる。 「本当に2回負けてもおかしくないタイミングがある中で、ああやって二巡目まで行くというのは、なかなかできない経験をさせてもらったなと思います」(清水監督)「2回も勝つチャンスがあったんですけど、そういったところを逃すと、するりと勝利がすり抜けていくという勝負の怖さも思い知ったなということですね」(岡田監督) 12-11。高校選手権史上3番目に長いPK戦を勝ち切った札幌大谷が、プレミア王者の大津が待つ次のラウンドへと、駒を進める結果となった。 「選手権は簡単じゃないということを感じました」。試合後。札幌大谷のキャプテンを任されている笹は、開口一番このフレーズを口にした。土壇場の土壇場で喫した同点弾。2度までも絶体絶命のピンチに立たされたPK戦。清水監督もまったく同じ言葉で、激闘を振り返る。 「選手権って簡単じゃないなと思いました。試合の内容自体はそんなに悪くなかったと思うんですけど、やっぱり決めるべきところで決めないと、最後にああいうセットプレーで追い付かれるという難しさは、今日の試合を通してまた学びましたし、ゲームの流れ的には九分九厘ウチの負けかなというところでも、こういうことが起きるのが選手権なんだなと」。 次戦で向かい合うのは優勝候補筆頭にも挙げられている難敵の大津。もちろん厳しい試合になることは百も承知。だが、『選手権の難しさ』を強烈に実感する体験を得た彼らが、今度はそれをプレミア覇者に突き付けられないとは、誰にも言い切れないはずだ。 「次の相手は大津さんで、高校年代のチャンピオンですし、対策をしたところでという感じもあるので、相手の分析はしますけど、自分たちの良さをどれだけ出せるかというところを考えて、次の試合に臨もうと思います」(清水監督) 一度地獄を見たものは、強い。もう失うものは何もない。何度窮地に追い込まれても、そのたびに甦ってやる。最強王者と対峙する次の一戦で、札幌大谷がこの日のピッチで得たものの真価が試される。 (取材・文 土屋雅史)