『熊谷不要論』を吹き飛ばせ! 世界一への確率を1%でも高められると考えれば、酸いも甘いも知るキャプテンは必要だ【パリ五輪の選ばれし18人】
なでしこ欧州組のトップランナー
パリ五輪に挑む、なでしこジャパンのメンバーがついに決まった。ここでは12年ぶりのメダル獲得を目ざす日本女子代表の選ばれし18人を紹介。今回はDF熊谷紗希だ。 【PHOTO】7月25日にパリ五輪初戦を迎える、なでしこジャパン18人とバックアップメンバー4人を一挙紹介! ――◆――◆―― 2016年に発足した高倉麻子監督時代のなでしこジャパンからキャプテンを務める熊谷紗希は、ディフェンスラインの統率力、対人プレーや空中戦の強さ、そして強いキャプテンシーで、長年チームを牽引してきた。 今回のパリ五輪メンバー18人の中では、熊谷が2011年の女子ワールドカップ優勝を知る唯一の選手となった。翌年のロンドン五輪では準優勝して、なでしこジャパンに初のオリンピックメダルをもたらし、15年の女子W杯では準優勝と、主要世界大会で3大会連続の決勝を経験した。なでしこジャパンが最も勢いづいていた頃から、後方からチームを支えているのが熊谷だ。 しかし、熊谷も出場したリオ五輪のアジア最終予選で敗退した2016年頃が、なでしこジャパンの節目となる。 「正直、その敗退から世間のなでしこジャパンを見る目が、やはり変わってきた気がしている」と熊谷は振り返りながら、「女子サッカーを普段から見ない方に『今のなでしこジャパン、誰も知らない』と言われてしまうこともある」と辛い心情も明かした。 酸いも甘いも知るキャプテンが、すべての経験を懸けて臨むのが、今夏のパリ五輪だ。 北海道出身の熊谷は、数々のなでしこリーガーを輩出する宮城県の名門・常盤木学園校に進学し、ボランチとして活躍した。高校生ながら佐々木則夫監督(当時)が率いていたなでしこジャパンに招集され、デビューまで果たした。 育成年代の代表チームではセンターバックを任され、浦和レッズレディース(現・三菱重工浦和レッズレディース)に加入してからも、最終ラインが主戦場となっていく。 2011年の女子W杯優勝後にフランクフルト(ドイツ)に移籍し、2年間経験を積んだ後に、世界屈指の強豪リヨン(フランス)へ新天地を求める。クラブでは主に中盤の位置で出場することが多く、屈強な外国人選手と日々練習と試合を重ね、世界最高峰と言われる女子の欧州チャンピオンズリーグでは史上初の5連覇に関わる。アジアサッカー連盟が選出する2019年の最優秀女子選手賞も受賞した。 リヨンを退団後はバイエルン(ドイツ)に赴き、現在はローマ(イタリア)に所属。今でこそ数々のなでしこジャパンの選手が欧州各国リーグで活躍しているが、熊谷はそのトップランナーと言える。 池田太監督はパリ五輪メンバー発表会見で「本人と話したわけではなく、こちらから意思の確認はしていないが、このチームをずっと引っ張って戦ってきた熊谷選手に、チームをまとめてもらおうと考えている」と、熊谷に引き続きキャプテンを任せる意向を示した。 熊谷は近年、なでしこジャパンでも中盤の底を任される試合があり、複数のポジションが求められる五輪でも、中盤の位置からのフィードは生きてきそうだ。 SNSが発達した昨今、目にしたくない意見でも手元に届く。世間に『熊谷不要論』があるのは、熊谷自身や池田監督も知るところだろう。 しかし五輪で優勝を掲げる監督が、そこに不要な選手を選ぶことはない。若手選手の可能性の大きさを知る指揮官が、世界一への確率を1%でも高められると考えた18人の中に、ベテランの熊谷がいた。 「(五輪は)女子サッカーを見てもらう大切な機会。こういう言い方が正しいか分からないけど、サッカーは4年サイクルで回っているから、その集大成に」とは、熊谷の女子W杯後の言葉だ。3回目の五輪を迎えるなでしこジャパンのレジェンドが、長く活躍したフランスの舞台でどんなプレーを見せるのか。 取材・文●馬見新拓郎(フリーライター)
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