Bリーグ中地区首位攻防戦を制した三遠ネオフェニックス「若い選手が経験を積むゲームができたことがアルバルクに勝ったことよりも重要」
実際にヘッドコーチという立場を経験すると、本当におもしろく興味深い立場だと感じた
対するA東京も、まもなく30歳になる若者がはじめての舞台に立つ。吉井と同じくコンディション不良のためにデイニアス・アドマイティスヘッドコーチを欠き、A東京で5シーズン目を数える岩部大輝アシスタントコーチ/スカウティングコーチが代行として、思わぬ実地試験がめぐってきた。 東海大学で学生コーチとして陸川章監督に師事。2017年、陸川監督を中心に大学界の重鎮コーチを揃えたユニバーシアードにスタッフとして参加。メンバーには、安藤周人や平岩玄とA東京のチームメイトも名を連ねていた。その年、東海大学大学院を経て、川崎ブレイブサンダースのアナリストとしてプロの舞台に活躍の場を移す。2019-20シーズンより、当時ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ率いるA東京に迎えられた。 「満員の観客の前でコーチをさせていただいたのは、これがはじめて。チームとして負けるべきではなかったですけど、個人としては良い経験にしなければならないと思っています」と率直な感想を述べる。試合中はアドマイティスヘッドコーチとホットラインをつなぎ、体調が悪い中にも関わらずアドバイスを送る。しかし試合は10点差で敗れ、チームも2位へ順位を下げる結果となった。 岩部ヘッドコーチ代行は早めのタイムアウトを取る姿に、思い切りの良さを感じる。「とにかく三遠は火力の強いチームなので、1回火をつけてしまえば8点、10点、15点ぐらいランされてしまう。例えば、最初の津屋(一球)のスリーポイント、あれは絶対にダメだとミーティングで話しており、そこをやられたときはもうすぐに流れを切ることは心がけていた」とホットラインを活用することなく自ら決断。第2クォーターは開始2分で6点リードされ、前半最後のタイムアウトを早々に取ったが、その後のオフィシャルタイムアウトもうまく活用させながら、45-40と5点リードで折り返すことに成功した。第4クォーター残り1分7秒、ヤンテ・メイテンの得点で70-76、ここでも6点差にされた。しかし、岩部ヘッドコーチは動かず、互いにワンポゼッションを終えた残り23秒、最後のタイムアウトを取る。 「はじめての経験であり、正直に言って未知の経験だった。タイムアウトを取るタイミングにしても、タイムアウトを取ったときも、もう少し具体的な指示ができたのではないか、アジャストメントできたのではないか、と(終わったばかりの)この瞬間に思っている。しっかり振り返ってみなければ分からないが、なかなかうまくいく試合ではなかった。でも、実際にヘッドコーチという立場を経験すると、本当におもしろく興味深い立場だと感じた」 試合前、女子日本代表のスタッフとして2度のオリンピックを経験し、来シーズンからWリーグに新規参入するSMBC TOKYO SOLUAの今野駿ヘッドコーチと電話で話したそうだ。東海大学時代の同期であり、陸川監督の弟子である。今年で勇退した「陸さんのひとつの時代が終わったので、これからは僕らが東海大学のOBとして、新しいバスケットボールを作っていかなければいけない」と互いを高め合った。岩部ヘッドコーチ代行にとっても、今後のバスケ人生を左右する分岐点となったかもしれない。
泉誠一