「付加価値-営業変動費=顧客価値」 コロナ禍を乗りこえた、牛肉料理老舗の「おもてなし」とフェアな経営とは
◆独自の成果指標「顧客価値」とは
――社長に就任されてから新たに始めたことは? 我々には「お客様第一主義」という経営理念がありますが、実際の現場では「お客様第一主義」よりも利益ベースで判断することが結構あります。 ただ、今半の現場の「お客様第一主義」に惚れ込んできた社員にジレンマにもなっています。 そこで、「お客様第一主義」に関する理念教育について、もう一度巻き直しをしなければいけないと思っています。 人形町今半のブランドと価値を、言語化・体系化する取り組みを3か年計画で浸透させる取り組みが、始まったばかりです。 従業員20名程度を対象に講演してその後に対話をする「社長フォーラム」も、試みのひとつです。 ――「言語化・体系化」で、具体的に進めていることはありますか? ひとつは「顧客価値」を成果指標にしようということです。 「顧客価値」は「お客様第一主義」の事業をしている従業員にとって、最も大事な価値のはずです。 仮説として、付加価値から営業変動費を引いたものを「顧客価値」と呼びます。 お客様が素晴らしい商品、つまり自分の困りごとを回避してくれるような価値と出合うためには、マーケティングと営業努力という「経費」が必要です。 我々の経費を差し引いたものが、「お客様が出会えたという満足度」と「我々がそれを提供すること」とイコールだと仮定していいでしょう。 そこで、売り上げや客数や営業利益のほかに「顧客価値」を評価にしようということで、予算化しました。
◆社員みんなが「株主」になって経営参加
――持株会社制度を導入されたとのことですが、それはどのような仕組みになっていますか? 持株会をつくり、役員、部門長、管理職、5年以上勤務している方々に、どんどん株を保有してもらっています。 現在、50%以上の株は役員や社員たちで保有している状況です。 一人の株数に制限を設け、定年後は株を持株会に戻し、また欲しい人に買ってもらう。 自分たちの業績によって、定年までの間ずっと利回りを得られる仕組みにしました。 すると、各自が経営に参加している意識になり、株主としてアナライズされた情報を持てます。 「もっとこうしたらいいよね」と、みんなが意見を出し合える会も設けています。 ――家族経営企業では珍しい持株会社制度を導入したのは、どんな理由からですか? 今半が創業してから来年で130年、人形町今半になってから70年。 今半は、我々の持ち物ではありません。 歴史や伝統を紡ぐバトンと同じ。 我々が「所有する」という考え方は間違いです。 とにかく次の世代に紡いでいって、紡いだときの仲間、要するに社員の方々を幸せにする手法に変えていくため、3年前から持株会社制度を実行しました。 ――社員の方々との信頼関係があってこそできることですね。 持株会のメンバーは、新卒からずっと関わっている方々や、中途で入って立派な要石のようになっている方々で、経営側と相互に信頼関係を築けています。 やはり、信頼というのはこちら側から出さないとできないことです。 今回の持株会も、信頼のひとつの象徴にしたいなと思っています。 兄と私で代表権を持ってから、「社員のみなさんともっとフェアでいたいね」とずっと話し合ってきました。 私たちは「特権者」ではなく、常に同じ目標に向かっているチームであって、ただ役割が違うだけなのです。 「全員が自分たちの人生を幸せにしていくことを使命として、お互い信頼し合ってやっていくような企業になりたいね」、と。 青臭い話ですが(笑)。