人はなぜ身分と学歴をまとう者にだまされるのか、フランス超エリート校の廃止が持つエリートの意味
これはもちろん今に始まったことではない。確かな能力だと判断するものがない以上、そうではないと理解しつつも、人はまたその身分と学歴の魔力に翻弄され、容易にだまされてしまうのである。 このことを見事に表現した、1853年のカール・マルクスの言葉を最後に引用しておこう。 「ルッジェーロは、何度でもアルチーナの偽りの色香に惑わされる。その色香のかげには、そのじつ、「歯もなく、目もなく、味覚もなく、なにもない」一人の老いた魔女が隠れているものだということは、彼にもよくわかっているのだが。この武者修行の騎士は、これがいままで自分に恋慕した人間をみなロバや、そのほかの動物に変えてしまった女だということを知りながら、またしても彼女に恋慕するのを抑えることができない。イギリスの大衆こそもう一人のルッジェーロであり、パーマーストンはもう一人のアルチーナなのである」(『ザ・ピープルズ・ぺーパー』1853年10月22日、『マルクス=エンゲルス全集』大月書店、341ページ)。
だまされないためには、大衆にも、学歴という魔力から抜け出すための経験知と地頭が必要なのだ。 (ちなみにルッジェーロとアルチーナの物語はアリオストの『狂えるオルランド』〈脇功訳、名古屋大学出版会、2022年〉の登場人物である)
的場 昭弘 :神奈川大学 名誉教授