H&MのCEOも退任。小売業界で働く女性たちはなぜCEOを辞めていくのか
トップの座に就くということ
女性リーダーに見られるこうした自信の欠如は、起業時から始まる場合がある。取引追跡サービスのピッチブック(Pitchbook)によると、ベンチャー向け投資が女性のスタートアップ企業に届くのはわずか2%だという。これは主に、ベンチャーキャピタリストのなかでも年間に取り扱う件数が多くて1件程度の人たちは、なじみのあるものに投資する傾向があるからだと前述のパーク氏は分析する。「一般的な男性ベンチャーキャピタリストが、女性に影響を及ぼすことに熱心である確率は非常に低い」。 しかしながら、ゆっくりであるものの、着実に変化は生じている。パーク氏はトッキの資金調達で、ベンチャーキャピタルのグラハム・エンド・ウォーカー(Graham & Walker)から支援を受けたが、同社が注目するのは女性起業家である。 米モダンリテールが取材した複数の情報筋によると、新たなCEOを見つける場合、男性が「無難」な選択肢なのだという。元ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)のバイヤーで、経営コンサルティング企業ザ・ファッショニアリング・ラボ(The Fashioneering Lab)の創業者ケイト・シェルダン氏は、2007年にファッションや小売業の企業顧客向けのコンサルティング会社を立ち上げた。企業のトップには、ビジネスリーダーの中には、女性や若者、有色人種とのネットワークをそれほど持っていない人たちがいると考えたからだとシェルダン氏は言う。同氏が目指す女性の経営進出は、いわゆる「自己成就的予言」につながる。ただし、女性CEOがジョンという名前の付く男性CEOの数を超えるのは、2023年まで待たなければならなかった。 企業内で女性の昇進が少ないのも同じ理由だ。リーンインとマッキンゼーの調査では、これを「ブロークン・ラング」(壊れたはしご)と称した。男性100人が中間管理職に昇進するのに対して、女性は87人、有色人種の女性は82人だという。そうなれば必然的に、上位の管理職に就く女性の数は男性よりも少なくなる。 さらに、たとえ候補に能力のある女性がいたとしても、その多くは子育てや親の介護、もしくは両方の板挟みになる年齢、いわゆる「サンドイッチ世代」に属する可能性がある。雇用の判断を下す側が、「家庭で大きな責任を担いながら、仕事に100%の力を発揮できるのか」と考えるのは当然で、そこには「悲しい現実」があるとシェルダン氏は指摘する。 化粧品会社コパリ(Kopari)のCEOスーザン・キム氏は、複数の美容関連企業で経験を積んだ。美容業界では、女性の経営者はほかの業界よりも一般的で、ビジネスの世界では男女という性別の二元論的アプローチは徐々になくなりつつある。とはいえ、キム氏の周りには現在でも、家族の世話をするために役職を辞退している女性や、しばらく職場を離れた後に復帰するのに苦労している女性が数多くいる。「この合流車線に入るのはなかなか厄介だ。明確なルールなどない」とキム氏は指摘する。 一方、企業のリーダーになるのなら、そもそも一から自分で築きあげればいいのではないかと考える女性たちもいる。たとえばステファニー・スプレイレゲン氏は、10年間デジタルマーケティングで経験を積んだ後、自らパフォーマンスマーケティング会社スプレイレゲン(Sprayregen)を立ち上げた。しかし自分の会社でも、経営を始めて最初の2年ほどは私生活を隠していたという。顧客には妊娠を隠し、それを明らかにしたのは、息子が生まれてから3週間経過し、リモートで働いていたときだ。 「女性は、直面している状況を隠さなければと感じている」とスプレイレゲン氏。「残念ながら、偏見があるのは周知の事実だ。きっと仕事に集中できなくなるに違いないとか、対応できないと思われてしまう」。