H&MのCEOも退任。小売業界で働く女性たちはなぜCEOを辞めていくのか
経営陣のダブルスタンダード
役員になったらなったで、別の問題が生じる。パーク氏はこれまで自身のブランドで5000万ドル(約75億円)を超える資金調達を実現したが、同氏いわく、企業の役員は女性に対して男性よりも高い水準を求め、早く結果を出すように要請する傾向が見られるという。「ジェフ・ベゾスほど長い期間損失を出しても許される女性CEOはまずいない」。 「知り合いの女性役員のあいだでは、私たち女性が手にできるチャンスは難局にあるというのが常識だ。物事が計画通りに進みそうにないと察知すると、忍耐力やセカンドチャンスが少なくなる」とパーク氏は指摘する。 メディアやeコマースの企業でCEOやCMOを歴任してきたエグゼクティブ専門のコーチであるデニス・コンロイ氏の分析によると、女性CEOにもともと権限が少ない場合がよくあると分析する。コンロイ氏自身、CEO時に業務や人事の決断で、ほかの役員から自分たちの許可を得るように促されていたが、後任の男性CEOはそのような許可を求められていなかったという。 こうした動きはフラストレーションがたまるもので、女性たちのなかには、許可を求める日々の戦いを続けるよりも、退職する方が楽なのではないかと考え、実際に経営から身を引く人たちもいるとコンロイ氏は明かした。 「トップの頂点にようやくたどり着いたと思ったら、そこには……肩書もあるし、役割もあるし、多くの人が死ぬほど欲しがっている高給もある。しかし、本来ならパートナーであるはずの人たちから、まったく支援を得られないのだ」。 ある合併でも一悶着あった。合併後、コンロイ氏が相手のCEOに対して報告することに同意しない旨を示すと、プライベートエクイティ投資の投資家が驚きを見せたのだ。 「最終的に合併はうまくいき、私はそのエグジットをかなり友好的にまとめることができた」とコンロイ氏は言う。「でも、私から権力を奪い取るのはそもそも無理だと彼らに理解させるのは一筋縄ではいかなかった。そんなこと、土台無理に決まっているのに」。 女性のリーダーたちを支援する環境を作るためには、役員の多様性がカギだとコンロイ氏は指摘する。「数多くの役員会で、女性役員は自分一人だけという体験をしてきたが、どの役員会も、女性は象徴的な存在でしかなく、声もあげられず、会議室の隅に追いやられて、『面倒くさいヤツだ』と言わんばかりの扱いを受ける始末で、こうしたレベルでは、ガバナンスのダイナミックスがうまく機能しない」。 しかしコンロイ氏は、果たして多くの企業がこうした変革を率先して行うのだろうか、欧州に存在するような政策が必要になるのだろうか疑問を呈している。 ザ・ファッショニアリング・ラボのシェルダン氏は、役員会に多様性のあるブランドとしか仕事をしないように努めている。「購買力の80%以上は女性にあるのは間違いない」とシェルダン氏は言う。「役員が多様な顔ぶれで、経営陣が顧客をよく理解していることがいかに重要なのかを認識すべきだ」。