H&MのCEOも退任。小売業界で働く女性たちはなぜCEOを辞めていくのか
これからの時代に変革をもたらす
多くの女性リーダーは、CEOになれば、組織的な変化を推し進める重要なチャンスを手に入れられる。再販プラットフォームのトロウブ(Trove)のCEOゲイル・テイト氏は、前職の化粧品メーカー大手ロレアル(L’Oreal)で何人かの女性役員たちの働く姿を見てきた。その当時は意識していなかったが、後になって考えてみると、彼女たちが仕事と家族を両立している姿をを間近に見られたのは大きな意味があった。 テイト氏自身、子どもが生まれたあとのキャリア構築について特に心配していなかったという。というのも、先輩の女性リーダーたちが同じことをしてきたのを見ていたからだ。同氏はその後、Googleで、欧州・中東・アフリカ地域を担当する女性初のディレクターになった。 「自分に女性のリーダーとしての能力があると強く信じられたのは、ロレアルの女性先輩たちの影響だが、その影響がどれほど大きいものだったのか気づいたのは、Googleに入り、背の高い同僚たちに囲まれてからだった」。 しかし最近では、テイト氏の話では、同僚の男性役員の多くが、女性役員と同じような優先順位のつけ方をしているという。つい先日、テイト氏が夜7時にある役員に質問のメールを送ったところ、その男性は、今、家族と食事中だから、そのあとで構わないかと返事をしたという。「彼の反応がとても嬉しかった。これまでの固定観念に固執しないことが重要だと私は思う」。とはいえ、まだまだ偏見を感じることはあるという。初めてメールを送る相手に、男性アシスタントの名前を含めて送ると、その相手は同氏がCEOであることに気づかないことが時折あるのだ。 テイト氏は、職場で新たな優先順位が確立されていくにつれて、女性CEOの存在が普通になっているように感じると話す。「これまでのCEOというのは、リーダーは男性的で強くあるべきという考え方で定義づけられたのではないかと思う。馬車馬のように働く人、たとえばイーロン・マスクのようなタイプの人だ。とてもつらいのは当然で、睡眠をとるのは負け犬のためのものという考えだ」とテイト氏は語る。「しかし、そんな厳しい仕事や立場も、バランスの取れた考え方に代わってきているのではないだろうか。自分自身を大切にするのは、仕事をするうえでとても大切なことだ」。 テイト氏の場合、メンターや友人、家族のサポートがあるおかげで、忙しい毎日でも、しっかりとうまくバランスが取れているという。 同氏は社内で、多様性に富んだスタッフの配置に努めている。自社スタッフの半分はBIPOC(黒人・先住民・有色人種)で、42%は女性もしくはノンバイナリー(自分自身を男性にも女性にも当てはめない人)である。トロウブでは雇用を判断する際に、ルーニー・ルールを採用している。これは米国のナショナル・フットボール・リーグ(NFL)で制定された、要職にはマイノリティの候補者を含めなければならないという規則だが、「多様な考え方は、クリエイティビティやイノベーションを促進するうえで、非常に重要だ」とテイト氏は話した。 コパリのキム氏は、CEOになることは「私の選択肢に含まれていなかった」と明かした。しかし、フーダビューティー(Huda Beauty)やベネフィット(Benefit)のような美容ブランドで経験を積んだ結果、チームをまとめて、スタッフの能力を伸ばすことがとても好きだと気づいたのだ。 本社がカリフォルニア州サンディエゴにあるコパリは、ハイブリッド型リモートワークを実施しているが、離職率は低いほうだ。これは、社内でキャリアを伸ばす選択肢が与えられているからだとキム氏は分析する。「スタッフの業績や可能性、忠誠心を高く評価することは、私にとってとても重要だ。すばらしい仲間たちのことを考え、彼らのために時間を使う。コパリでのキャリアだけでない。スタッフのその先の人生も視野に入れなければならない」。 キム氏によると、半年ごとにリーダーシップチームが顔を合わせ、スタッフのキャリアについて話し合い、能力開発の支援金や指導の是非を検討する。マーケティングであれ、サプライチェーンであれ、営業活動であれ、どの分野も隈なく人材をチェックするので、昇進の対象となる候補者が幅広く挙げられる。その中には、今後、会社のトップを担う可能性のある人々も含まれる。 「誰に次のリーダーを任せてもいいほど、このチームは人材が豊富だ。何が起ころうと問題ない」。 [原文:Why women in retail are leaving CEO positions] Melissa Daniels(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)
編集部