東洋経済が選ぶ「教育関係者にお薦めしたい」本 2023年を振り返り、2024年に備える1冊がここに
攻める学級経営/守る学級経営(著:三好真史)
教師の本業は「子どもと向き合うこと」、その中核はやはり授業だろう。その授業をよりよくするために必要なのが学級経営だ。 学級経営に関する本は数多くあるが、『攻める学級経営』『守る学級経営』(著・三好真史/東洋館出版社)は、元公立小学校教諭で現在は京都大学大学院教育学研究科に在籍する三好真史氏が、学級経営を2つの側面から扱った本だ。 学級経営には、安定した状態と、不安定な状態がある。安定している学級は、子どもが落ち着いて学習に向かうことができており、教師と子どもの関係が良好で、子どもと子どもの関係も良好に構築されている。 そのような学級には、学級の力をさらに高めていく手法が必要になるため、「攻める学級経営」が必要である。一方、不安定な学級は、学級が不安定な状態から崩さないようにしつつ、少しでも安定させるための手法が求められるため「守る学級経営」が必要というわけだ。 教育実践が、うまく学級の実態にそぐわない。また学んだ実践が、担任する学級に響かない。そんなときは『攻める学級経営』と『守る学級経営』の2冊を読み比べてほしいという。 『攻める学級経営』では、教師のリーダーシップの正しい発揮の仕方や子どもの怠惰な行動の引き締め方、子どもを伸ばす授業のつくり方、学級力の底上げの仕方などをまとめている。 『守る学級経営』では、学級の悪化を防ぐ指導や学力を保障する授業のつくり方、学級崩壊への対策などがまとめられている。三好先生は、自身もいわゆる「荒れた学級」の経営にあたった経験を持つ。崩壊へと進み始める学級を、どのように食い止めるのか。学級の状態が悪化しないようにするためにできることは何なのか。そうした切実な悩みを持つ先生は『守る学級経営』から読むのがお薦めだ。
不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画(著:川上康則ほか)
教室マルトリートメントという言葉をご存じだろうか。教室内で行われる指導のうち、体罰やわいせつ行為のような違法行為として認識されたものではないけれども、日常的によく見かけがちで、教室で行われる子どもの心を傷つけるような不適切な指導を示す。杉並区立済美養護学校の川上康則先生の造語だ。 川上先生は、2022年4月に刊行した『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)で、これまでグレーゾーンとされてきた教師の不適切な関わりを単に教師個人の資質や能力の問題として捉えるのではなく、むしろ誰もが陥る可能性があり、かつ教育界の構造的な問題に端を発している課題と考えるべきではないかと指摘。刊行記念として教育関係者向けに開催したオンラインセミナーの内容を書籍化したのが本書『不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画』(著:川上康則ほか/東洋館出版社)だ。 臨床心理士で一般社団法人ジェイス代表の武田信子氏とは「やりすぎ教育と教室マルトリートメント」、臨床心理士で公認心理師そして『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)の著者である村中直人氏とは「学校現場の〈叱る依存〉と教室マルトリートメント」、評論家でNPO法人ストップいじめ!ナビ代表の荻上チキ氏とは「子どもの心理的危機対応とは何か」の3つのテーマから不適切な指導への予防策を考える。 書名にある「安全基地」とは場所のことではなく、人の役割や働きかけのことを指し、発達心理学の用語。人が主体的に行動しようとする際には、喜んでその背中を送り出してくれるような空港の滑走路のような役割を果たし、何かあったときに戻ってくることができる、安心感のある場所が必要だ。本書は、教室を子どもたちの「安全基地」にしていくことを目指した1冊だという。 (注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部