社会保障は金持ちから貧困層への再分配にあらず
どうも世の中の人たちは、社会保障が行っている所得の再分配というのは、高所得者から中・低所得者への「垂直的な再分配」が第一の目的だと勘違いしているようである。しかしながら、今の時代、それは完全な間違いである。社会保障の給付費の9割を占める社会保険制度が行っている所得再分配を重要な順に並べると次の3つになる。 1. 今必要でない人から今必要とする人への「保険的再分配」 2. 必要でないときから今必要なときへの「時間的再分配」
3. 所得の高い人からそうでない人への「垂直的再分配」 社会保険が垂直的再分配を行っているのは、賃金比例で拠出して、必要に応じて給付を受けているがゆえの、結果としての垂直的再分配の趣が強い。社会保険の第1、第2の目的は、保険的再分配、時間的再分配による消費の平準化である(1と2の重要さは同程度であり、3の重要さはそれらより低い)。 賃金に比例して応能負担の原則で労使折半により拠出し、個々の家計の必要原則に基づいて給付を行うことにより、消費が「必要な人・とき」へシフト(平準化)する。この再分配により、貧困に陥ることを防ぐ防貧機能が果たされ、中間層を中心としたほとんどの人たちの生活が守られるわけである。ベストセラー『21世紀の資本』を著した経済学者ピケティの言葉を借りれば、「現代の所得再分配は、金持ちから貧乏人への所得移転を行うのではない」ということになる。
このあたり、すなわち、社会保障の主な役割は、垂直的再分配ではなく、保険的、時間的再分配であることは、本当に理解されておらず、社会保障周りへの誤解の入り口となっている。児童手当の所得制限の是非の判断にも影響を与えるため、3月に出かけた自民党の財政健全化推進本部というところでも私は次のように話している。 ここでわかっておいてもらいたいことは、社会保障給付費の9割を占める社会保険の第1の目的は、生きていると必ず直面する「支出の膨張」と「収入の途絶」という生活リスクを平準化すること。これを消費の平準化(consumption smoothing)と呼ぶわけですが、これがメインであるということです。所得の再分配というと高所得者から低所得者への垂直的再分配がメインであるように思っている人が多いのですけど、それは、能力に応じて負担して必要に応じて給付を受けるという社会保険の原理の下で結果的に生じている副産物のようなものでして、社会保険が圧倒的規模で行っていることは消費の平準化です。