社会保障は金持ちから貧困層への再分配にあらず
野党や一部の有識者たちは猛反発している。中には、今回の支援金を医療保険料の流用と呼ぶ者もおり、その自説を拡張して、これからもそうした流用が際限なくなされるようになるという者もいたりする。 後述するが、支援金の財源調達方法は、賃金のサブシステムを構築する以外に使うことができるわけがない。そうしたこともわからない日本の民主主義、いわゆる有識者からなる言論界というのは、その程度のものと諦めて眺めておくしかないのだろう。
今はとにかく、「今回の支援金騒動の主役である政党、そして彼らを代弁するさまざまな応援団が、かつての年金騒動時とほぼ同じ懐かしい顔ぶれである様子を眺めると、歴史が繰り返されているように見えるものである。議論の経緯をみんなで眺め、誰が何を言っているのかをしっかりと記憶しておくことは、日本の民主主義を進化させるためにも、意味のあることのようにも思える」(「子育て支援めぐり「連合と野党だけ」猛反発のなぜーー 騒動の主役は『年金破綻論全盛時と同じ顔ぶれ』」 より)。
■キーワードは消費の平準化 どうして子どもを育てている世帯は、給付の受け取りと支援金の拠出との差であるネットの受取額が大きなプラスになるのか。それは、新たな支援金制度が、社会保障の基本かつ最重要な機能である消費の平準化(consumption smoothing)を果たすことになるからである。 このあたりの話に触れていた「社会保険が子ども・子育てを支えるのは無理筋か 『提唱者』権丈善一・慶応大教授が寄稿(上)」に書いていたことをおさらいしながら、説明しておこう。
医療費の50%以上、介護給付費の96%は70歳以降で使い、年金給付費の83%ほどは老齢年金である。医療、介護、年金保険はこれら高齢期に集中する生活費を若いときから負担しておいて、将来になったらそれを使うという形で支出を平準化していることになる。これが消費の平準化(consumption smoothing)であり、社会保障という所得再分配制度が担う主な役割である。社会保障というと、一部の人は「自分とは関係のない、困っている人へのほどこし」というイメージを持つようだが、社会保障給付費の約9割は社会保険であり、この社会保険の機能は所得再分配によって、われわれの消費を平準化することである(生活保護など公的扶助は社会保障給付費の3%程度)。