入学者わずか3人の大学も 少子化時代の新設大学、大化けする可能性の見極め方
新入生3人に専任教員23人
一方、苦戦している新設大学がある。 23年に開学した電動モビリティシステム専門職大(山形県飯豊町、私立)の入学者はわずか3人だった(定員40人)。学生募集が遅れたこともあって、最初の総合型選抜では受験者がいなかった。一般選抜で3人、追加の総合型選抜で2人が合格したが、このうち2人は入学手続きをとっていない。入学式で清水浩学長はこう式辞を述べた。「前向きな皆さんが入学した。自動車開発には、氷や雪で車が滑ることを体感することが重要。最先端の分野で、町の気候の下で新しい道を切り開いていきたい」(「朝日新聞デジタル」23年4月6日)。新入生3人は寂しく、状況はかなり厳しい。 だが、ポジティブにとらえることもできる。同校は電気自動車(EV)、自動運転システムの最先端を学び、専任教員23人、非常勤の教員20人が専門技術を教える。学生にとってこれほどぜいたくな学びの空間はない。満足度は高いはずだ。卒業後、彼らが社会で活躍することによって、学生3人でスタートした電動モビリティシステム専門職大は大化けするかもしれない。もちろん、大学がしっかり教育を行う、学生がそれに応えることが前提になる。 新設大学が知名度を高め、社会から信頼を得るためには時間がかかる。卒業生を出してからでないと、その大学を評価することは難しいからだ。 新設の定義を最近4~5年でなく、もうすこし広げるとその真価が見えてくる。開学10年以内、2017年以降に初めて卒業生(1期生)を出した新設大学のなかには、ランキングに堂々と登場するところがある。
新設大学は資格試験の合格実績で検討
14年、大和大(大阪府吹田市)が開学した。18年に初めて卒業生を出したが、同年、さっそくランキングに顔を出した。小学校教員採用者は55人(66位)である(大学通信調べ、以下同)。その後、ほぼ右肩上がりでどんどん増やしていく。19年67人(55位)→20年77人(46位)→21年98人(22位)→22年98人(24位)→23年108人(17位)。開学わずか9年で小学校教員採用者の累計は500人を超えた。伝統的な国立大学教育系養成学部を凌駕する勢いだ。 国家試験合格者でも新設大学は健闘している。 14年開学の日本医療大(札幌市)は診療放射線技師43人(23位)、15年開学の湘南医療大(横浜市)は作業療法士31人(39位)、助産師14人(14位)となっている(いずれも23年実績、厚生労働省資料による。以下同)。そして、19年に開学した高知リハビリテーション専門職大は1期生(23年卒)から言語聴覚士20人(18位)を出した。 新しい大学で国家試験合格実績が高いところ(とくに看護、福祉、医療、保健分野)は、早期から試験対策を行っている。前身がこうした分野で国家試験対策にたけた専門学校であることが多く、そのノウハウが大学に引き継がれた形だ。「大学というより、国家試験予備校ではないか」という意見がある。それは、大学とは幅広く教養を学んだ上で高度な専門知識を身につけるという大学観による批判的な見方だろう。大学進学率が20%台にとどまっていた時代(1990年代前半)では通じたかもしれない。高等教育はエリート層によって支えられた側面があった。 しかし、大学進学率が50%を超えるいまでは現実的な話ではない。キャンパスではさまざまな層が学んでいる。進路の幅もかなり広がり、各分野にわたっている。福祉、医療、保健分野の専門職育成に特化した大学は増えた。関係する国家試験合格実績で大学間が競うようになった。短期大学、専門学校が定員割れを起こしたことで、これらの学校経営者が大学「市場」に入ってくるのは、自然の流れである。