新型ドグマF試乗記“F世代”の集大成|PINARELLO
絶対性能と官能性能
先代ドグマFもお借りすることができたので、同条件で比較した。ただし試乗車の都合で先代はフレームサイズが500となる(新型の試乗車は筆者にジャストは465)ため、参考程度に。 先々代であるドグマF12は走行感がどこか刺々しく、速いは速いが挙動に深みがなかった。それと比較すると先代ドグマFはペダリングフィールがややマイルドになり、高出力でも踏み続けやすくなっていた。最初は初期加速が鈍くなったと感じたが、わずかなタメができたことで低負荷やヒルクライムで軽やかさが生まれ、高速ではより伸びるようになっている。ドグマF12→先代ドグマFの変化は、メリットのほうが大きいと判断した。 新型ドグマF、基本的に先代と走りの方向性は似ているが、脚当たりのよさはそのままに、新型のほうがやや俊敏になっている。さらに、先代より高負荷時にハンガー周りの無駄な動きが抑えられており、シャカリキになってペダルを踏んでいるときでも安定感を失いにくくなった。差はかなり小さいが、レーシングバイクとして新型のほうが完成度が高い。 思い返せば、ドグマがF世代になってから、どんどん高剛性化が進んでいた。F8~F10~F12と、いずれもアマチュアにとってはガチガチと表現したくなるほどの剛性だったが、先述したように先代ドグマFでペダリングフィールを柔和にし、性能を維持したまま一体感が高まった。新型もその方向性を堅持したということは、おそらく作り手に「現代レーシングバイクはこうあるべき」という意図があるのだろう。 人がペダリングするときは、二本の脚が垂直方向に上下運動を行う。人間の骨格上、左右のペダルの間隔は広げられない(がに股だとペダリング効率が下がる)。要するにフレームは左右に薄く作らなければならない。前後に長く左右に薄いものの横方向の剛性を上げるのは難しい。プラスチックの定規は縦方向には硬いが、横方向にはペナペナである。だからかつて金属フレームの時代は、各メーカーはフレーム剛性を上げることに躍起になっていた。 しかしスチールやアルミとは比べ物にならないほどの弾性率を誇る炭素繊維がフレーム素材の主流になると、高剛性化は比較的容易に達成できるようになる。前面投影面積の減少(=チューブの小径化)と軽量化という、高剛性化とは相反する2つの要素を差し引いても、ロードバイクは硬くなった。 だから高剛性化させやすくなった現代においては、「動力伝達性の確保(≒高剛性化)」と、「踏みやすさ・脚当たりのよさなどのフィーリング」の両立が求められるようになる。 そこにおいて、ピナレロはすでに一つの正解に手を掛けつつある。新型の「動力伝達性とフィーリングの両立ポイント」は先代よりも高くなった。今回のモデルチェンジには意味があると思う。