新型ドグマF試乗記“F世代”の集大成|PINARELLO
新型ドグマのスタイリング一考
ファウスト氏はいつも「塗装がなくとも一目でピナレロだと分かるようなフレームでなくてはならない」と言う。それを子供っぽいと断ずることは容易だが、ブランドの時代を生き抜くには大切な矜持だろう。 というわけで、試乗記の最後は、主に主観の産物である「形から受ける印象」、要するにカッコよさについて簡単に分析してみる。 新型ドグマ、確かに「形が持つ力」は強い。個性的であり、アクが強いが、醜悪には至っていない。ここまで各チューブをぐにゃぐにゃに湾曲させカクカクと折ってしまうと、ともすれば奇をてらっただけの醜い自転車になってもよさそうなものなのに、実物は絶妙なバランスでエレガンスが成立している。しかも、均衡をとるのが難しいスモールサイズでもそれが破綻していない。 自転車においてフレームは風と応力をもろに受ける部品でもあるから、形状=性能というシビアな世界である。形で遊ぶ余地がほとんど残されていないのだ。だからデザイナーが「インスピレーション」やら「アタシのセンス」やらで暴走すれば、たちまち「形だけは立派で走りはメタメタなゴミ」の一丁上がりである。実際、そういうロードバイクは今でも少数ながら存在する。個人的には近づきたくもないが。 新型ドグマが素晴らしいのは、見た目の魅力と実際の性能とのバランスである。ルックス上の魅力を保ちながら、先述のとおり走りは非常にレベルが高い。素晴らしいデザイン手腕とエンジニアリングだと思う。 先代ドグマFと新型ドグマF、2台を並べてみると、形状そのものはほとんど変わっていないのに、新型のほうが魅力的だと感じる。つぶさに見比べてみると、その原因らしきものに気付いた。トップチューブ後端が描くラインだ。 先々代のドグマF12~先代ドグマFでは、横から見たときにトップチューブ後端のラインがダックテールのように跳ね上がっている。たった数ミリの「デザイナーの遊び心」なのかもしれないが、もともとシンプルなロードバイクのフレームにあっては、このたった数ミリが「デザインが饒舌にすぎる」という印象を与える(あくまで新型と見比べた結果の主観印象にすぎないが)。 しかし新型のトップチューブのラインは、中ほどで一回下方に折れたあとは、素直な直線を描き続け、シートチューブとの交点でフッと消える。 それによって、新型のほうがすっきりとして優雅になった。たかが数ミリである。性能的にはどうでもいいところだろう。しかしこの数ミリが、バイク全体の印象に大きな差を与えている。 個人的には、形状は機能に従うべきだと思う。先述のとおり、自転車のフレームは形=機能であるからだ。ただしピナレロのようなメーカーの立ち位置を考えると、ファウスト氏が言うように「見た目の魅力」も非常に重要だ。このデザインの磨き上げ作業は賞賛に値する仕事だ。 専用シートポスト込みで115万5000円。この新型ドグマFに乗るには19万円3600円の専用ハンドルが必須なのだから、実質的には130万円超のフレームセットであり、相応しいパーツで組むと軽く200万円を突破する。貧乏サイクリストとしては呪詛の言葉の一つでも吐きたくなるし、「高いんだからよくて当たり前でしょ」とも思うが、「塗装や見た目の高級感」と「性能とフィーリングの両立」の2点を同時に備えているという点において、新型ドグマFは他車にはない魅力を有している。F世代の集大成と評していい仕上がりである。 編集&撮影:バイシクルクラブ編集部
Bicycle Club編集部