アートで越える障害、パニックが減り集中できる時間も長く…30年以上指導の画家「可能性を知ってほしい」
個性的な作品で活躍の場を広げる障害のあるアーティストたちを支えている女性がいる。福岡県大野城市の洋画家松澤佐和子さん(65)。一人の少年との出会いを機に30年以上障害児らを指導しており、個展の開催や作品集を出すまでに成長した教え子は10人を超える。今年で10年目となる教え子らの展覧会が26日に開幕し、松澤さんは「彼らの可能性を広く知ってほしい」と願っている。(江口朋美) 【写真】会場に展示された作品の前でポーズをとる本村さん(26日午前、福岡県大野城市で)
大野城まどかぴあ(大野城市)で始まった展覧会「みんなのチャレンジアート展」。教え子を中心とする約80人が手がけたアクリル画や切り絵など、独特の色遣いや無邪気なかわいらしさが感じられる芸術作品約100点が並ぶ。
県美術展覧会(県展)で最高賞を受賞した作家から、色を付けるのに精いっぱいの小学生まで出品者は様々だが、松澤さんは「エネルギーが伝わり、見ていて元気になれる作品が多いんですよ」と評する。
障害児への指導を始めたのは、同県太宰府市の太田宏介さん(43)との出会いがきっかけだった。城戸の画号で活動していた松澤さんの造形教室に、母親に連れられて訪ねてきた当時は10歳。知的障害を伴う自閉症と診断され、5分も座っていられなかった。
「重い障害がある子に、どう教えたらいいんだろう」。経験がなく断ることも考えたが、熱意のこもった母親の目が忘れられず、悩んだ末に受け入れを決めた。
絵に興味がなかった太田さん。好きだった粘土細工に色を塗ることからはじめ、線を描いたり、色を塗ったりを繰り返し、少しずつ描けるようになっていった。
大きな変化もあった。制作を通じてパニックになる回数が減っていったのだ。松澤さんは「言葉で伝えることが難しい人にとって、芸術は思いを表現する手段だと気付いた」と振り返る。
作品を地域の文化祭に出展するなどしていると、口コミで障害児らが習いにくるようになった。一人ひとりの障害の度合いなどに合わせた指導法を模索し、例えば集中力が持続しない子には、絵の具で塗る、色紙をはさみで切るなどと短く時間を区切って取り組むよう工夫した。興味のない題材も加え、視野を広げることも心がけてきたという。