浅野拓磨がトルコのトラブゾンスポルと契約合意と現地報道も…パルチザンの抵抗で見えない先行き
宿敵レッドスター・ベオグラードとの国内カップ戦決勝を25日に控えている状況で、まさに寝耳に水だった浅野の退団に、チームメイトたちを含めたパルチザンの関係者からは「あと20日間待てなかったのか」などと非難する声がいっせいに上がった。 さらにパルチザンのミロラド・ヴェチェリッチ会長は「浅野の話はすべて詐欺だ。これは浅野と彼を雇いたいクラブとの間で交わされた陰謀だ」と怒りを露にした上で、セルビア国内のメディアに対して給与支払いに関する詳細も明かしている。 報道によれば、今シーズンの給与に関しては昨年10月5日を皮切りに11月4日、12月8日、今年1月12日、2月18日、そして3月26日と6回にわたって支払ってきたという。さらにヴェチェリッチ会長は「我々が支払った給与の分だけ、浅野はプレーする義務がある」としながら、報道のなかでこう言及してもいる。 「3月26日は給与に加えて、それ以前の未払い分の一部も支払われている。そして、今回の退団がなければ、5月5日にも支払われるはずだった」 パルチザン側の正当性を主張しているように聞こえて、その実はブログやSNSで「今現在も相当額の未払いがあります」と浅野が補足した遅配があったと認めている。今年に入ってからは支払い日が徐々に遅れてきただけでなく、さらに4月には給与が支払われていない上、今月5日に関しても「はずだった」と推量表現にとどめている。 FIFAは各国でプレーする外国籍選手に対して、給与の支払いが2度遅れた場合はクラブ側に対して公式のリクエストを送り、原則として15日以内に回答を得られる権利を認めている。それでもクラブ側との問題が解決されないときには、選手側から契約解除を通告し、フリーの立場で新たなクラブと契約できる理由になりうるとも定めている。 ヴェチェリッチ会長の説明と照らし合わせれば、FIFAに保障された権利を浅野側が行使した跡が伝わってくる。自分たちに正当性があるからこそ、公式ブログやSNSでパルチザン退団を表明した2日以降は、浅野は一貫して沈黙を守っているのだろう。 サンフレッチェ広島から加入した名門アーセナルでの挑戦を一度も公式戦のピッチに立てないまま、ブンデスリーガのシュツットガルトとハノーファー96への期限付き移籍で終えた浅野は、捲土重来を期して2019年夏に3年契約でパルチザンへ完全移籍で加入。2年目となる今シーズンに、カップ戦を合わせた公式戦で21ゴールと結果を残した。 ヨーロッパ5大リーグへの再挑戦を思い描く浅野にとって、トルコは一見すると望外に映るかもしれない。それでもスュペルリグのレベルはセルビアを上回り、さらにトラブゾンスポルは来シーズンからヨーロッパサッカー連盟(UEFA)が新設する、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグに次ぐ国際大会のカンファレンスリーグへも挑める。
加えて、トラブゾンスポルは年俸120万ユーロ(約1億5800万円)と、パルチザンの60万ユーロ(約7900万円)の倍にあたる金額を提示したとされる。寄せられる期待の大きさとビッグ3を倒すモチベーションとが相まって、浅野の背中を押したのだろう。 ただ、浅野を獲得する際に先行投資したパルチザン側もこのまま引き下がらない。FIFAの管轄機関への提訴とは別に、資金回収のために300万ユーロ(約4億円)を求める訴訟を起こすとも明言している。新たな動きこそ判明したものの、浅野が晴れて新天地のユニフォームに袖を通すまでには、まだまだ紆余曲折が待っているかもしれない。 (文責・藤江直人/スポーツライター)