【完全再現】“拉致船”が目の前に――「120%生きて帰れない」緊迫の護衛艦25年前の事件、元航海長の“悔い”今も『every.特集』
■接近、後ろに回り込む…その船の姿は
翌日の早朝、海自の航空機がアンテナの数が不自然に多い、不審な船2隻を発見。誘導を受け、「みょうこう」はそれらしき船に接近した。 伊藤 「右20度(ふたじゅうど)。真反航(まはんこう)の漁船の後ろに回り込む」 その船の後ろに回り込む「みょうこう」。「これは…」と伊藤は驚いた。船の後部に不自然な観音扉があった。ここから隠密活動用の小型船が出ること、こうした船で日本人が北朝鮮に連れ去られたとみられることを、伊藤たちは知っていた。 「北の拉致船じゃねえか」。声を上げた伊藤は艦内電話をつかみ、連絡を入れた。「艦長、見つけました!見つけました!はい、今目の前にいます!」
■「撃たれるか自爆されて全滅だ」
同じ頃、別の護衛艦「はるな」も少し離れた海域で不審船を確認した。海上保安庁に通報し、2隻の不審船を追跡する。 伊藤は甲板の周りで目視していた。「あいつら、日本の海で何やってんだ」。伊藤の部下は「航海長、外に出ると危ないですから。向こうは銃をもっているかも」と話した。 艦内のCIC(戦闘指揮所)でも、不審船の様子を確認していた。 由岐中船務長 「これってまさに、北朝鮮の工作船だよな。こんな大きな船に張り付かれているのに、やけに落ち着いていて不気味だな」 数時間後、複数の海保の船が到着。無線で「護衛艦『みょうこう』。こちら海上保安庁・巡視船、これより不審船に対応いたします」と連絡が入った。 「やっと立入検査のプロが来てくれた」。「みょうこう」の乗組員たちは、ほっとひと息をついた。 不審船に立入検査を行うのは海保の仕事だ。伊藤には、海上保安官たちが待機しているのが見えた。 「船務長、海保の隊員みんな若いんですね」と言う伊藤に、由岐中はこう返した。「相手は特殊な訓練を受けた工作員だ。下手をすると、撃たれるか自爆されて全滅だ」
■日没後に異変…言い合う艦長と航海長
停船命令に応じず、淡々と進む不審船。日没後、異変が起きた。 大きくなるエンジン音。暗闇を待っていたのか、不審船が急激に速度を上げた。 伊藤 「逃げた!達する!不審船が巡視艇を振り切ろうとしている。本艦は追尾するため、これより高速航行を行う!」 高速が出せない海保の船は警告射撃の実施に踏み切ったが、不審船はさらに速度を上げた。一部の海保の船は、完全に振り切られてしまった。また、追尾を続けていた海保の船からは「こちら巡視艇。燃料に不安があり、本部の指示で母港に帰ります。ご協力ありがとうございます」と連絡が入った。 伊藤 「今、帰るって言いました?」 鈴木艦長 「航海長、さっさと『了解』と伝えろ!」 伊藤 「了解していいんですか?日本人が連れ去られているかもしれないのに。燃料がなくなっても追いかけるべきです!」 鈴木艦長 「自衛隊が海保に指示できるわけないだろう!」 納得できない様子でレシーバーを握った伊藤。感情をおさえつけるように「This is みょうこう。Roger out(了解)」と返答した。