神野研一のF1オフシーズンエンジニア日記 ~F1新車発表の舞台裏~
少し遅くなりましたが、皆さん明けましておめでとうございます。今年もコラムを執筆させて頂くことになりましたが、読者目線で分かりやすい記事をお届けできるよう頑張りますので、今年もよろしくお願いいたします。 10チーム全て出揃った! 2024年F1新車発表会日程まとめ さて、そんな新年の挨拶もほどほどに、今回のコラムではF1新車発表の舞台裏について紹介しようと思います。2024年シーズン開幕が待ち遠しくて仕方ないというF1ファンの皆さんの話題提供になれば幸いです。 ■新車発表までの舞台裏は超タイトスケジュール! 前回のコラムでも少し紹介しましたが、年明けはチーム全体が超多忙になります。例えば設計部門は、提出期限が絶対遵守の多くの出図作業に追われます。もし出図が遅れるとプレシーズンテストで新車を走らせることができなくなる……そんなリスクに繋がるので、職場は緊張感に包まれます。 また、レースチーム、R&D部門、ビークルダイナミクス部門は新車の最終チェックのための実験に追われます。出図を経てファクトリー内で製造されたパーツをメカニックたちが着々と組み上げると、それまでCADデータ上でしか存在していなかったマシンがいよいよ現実になります。そして感慨に耽る時間もなく、すぐにマシンは台上実験室へと運ばれて行きます。 日本ではR&D部門というといわゆる研究開発部門という意味合いで使われることが多いですが、イギリスでは”実験”開発部門というより狭い定義で使われます。例えばフロントウイングの変形量の計測とその治具の設計などを担当しており、様々な検証実験を担当しています。 そして台上実験室では、主にサスペンションキネマティクス(サスペンションの3次元幾何学的な動き)の確認、サスペンションコンポーネントの特性実験、ウイング類の剛性実験など、車両の各システムの性能チェックだけでなく、レギュレーションに準拠しているかどうかをR&D部門が確認します。 ここで紹介できるのは全体の作業のごく一部であり、数え上げたらキリがないほどにたくさんの実験項目があります。ちなみに、この時点で組み上がっているマシンは一台限り……。各部門がこの一台のマシンをタイトなスケジュールで共有し、全ての実験をこなさなくてはならないのです。このため場合によっては深夜から実験スタートすることも決して珍しくありません。 もちろん、こういった走行前のシステムの特性チェックや確認実験により現代F1マシンの高い信頼性が成り立っていることも特筆すべきことです。自分も台上試験を担当していたので、その信頼性確保には少しは貢献していたかと思いますが、本当に多くの仲間に支えられてもらったからこそ、無事にマシンをサーキットへ送り出すことができました。