神野研一のF1オフシーズンエンジニア日記 ~F1新車発表の舞台裏~
■チームから見た新車発表
そんな多忙なF1チーム、特に開発技術陣からすると、新車発表は『できればリバリーの発表だけで済ませてもらえませんかね……』というのが偽らざる本音でしょう。近年のF1マシンの新車発表では、ショウカー(Show car)という展示用に作られたマシンに新シーズンのスポンサーやカラーリングを施した発表になる傾向があります。 例えば2023年のレッドブルの発表会はまさにそのパターンで、その発表会場はなんとアメリカはニューヨークでした。前述した通り、新車は走行に向けて様々な実験や検証をこなしている真っ最中です。もちろん、その新車をニューヨークに送る余裕は全くありません。こういった背景を知っていたので、新車発表の場所がニューヨークと発表された段階で『なるほど、レッドブルの新車は恐らくプレシーズンテストで初お披露目になるのだな』と自分はすぐに予測することができました。 一方でF1ファンやメディアに最も喜ばれるパターンがここ最近のアストンマーティンでしょう。2021、2022、2023年と三年連続で実際の新車を発表し続けてきました。特に2023年は独自色の強いデザインで、ウォータースライダー式のサイドポッドはF1のトレンドにもなりました。2022年以降は先行開発の仕事に従事していたため、自分はそこまで超多忙ではありませんでしたが、シーズン開幕前の超多忙な2月にしっかりと新車発表に漕ぎつけたチームは本当に称賛に値すると思います。
■今シーズンの注目ポイント
今年の新車発表において、日本人F1ファンの多くが注目するポイントとしてはハースF1チームの小松礼雄チーム代表による新車発表が挙げられます。小松代表とはミルトンキーンズのカートサーキットで開催された24時間耐久カートレースに一緒に参加するなど、ご家族とも個人的に交流させて頂いたことがあります。 その24時間耐久レースに向けて一緒に事前の練習走行をした時のことです。僕が迂闊にインを空けるとものすごい勢いでオーバーテイクを仕掛けてくるアグレッシブさが小松代表にはありました。その時の勝敗については敢えて言及しませんが(笑)、僕の小松代表への印象としては『闘将』、『漢気』、『情熱』という言葉で、義理人情に厚く、とことん勝ちに拘る人物でした。その小松代表が新車発表イベントを皮切りに、チームをどのように牽引していくのか? 数多の困難が待ち受けていることは想像に難くありませんが、小松代表の今後の更なる活躍に注目したいと思います。 2月は各チームの新車発表が目白押しとなっています。F1ファンの皆さんにとっては『早く今年の本当の新車を見たい!』という強い思いがあるので、リバリーだけの発表だった場合はガッカリしてしまうかも知れません。しかし、今回のコラムでも書いたようにそのバックグラウンドでチームは膨大な準備に取り組んでいます。なので、そのガッカリ感はそっと心の隅に置き『プレシーズンテストでは最高のマシンを見せてくれるはずだ!』と改めて期待感を高めてもらえればと思います。 今シーズンも素晴らしいレースが展開されるであろう2024のF1も開幕まであと少しです。皆さん、楽しみに待ちましょう!
神野 研一