「ノーベル賞」のその後(3完)生活を更新し続ける「化学反応」 スマホ画面や薬、未来の製品にも
クロスカップリング反応、さらなる進化へ研究進む
私たちの生活に役立っていて、ノーベル賞を受賞するくらいに世界的にも評価されているクロスカップリング反応。こう聞くと素晴らしくて完璧な化学反応だと思うかもしれません。ですが、実はまだまだ改善を目指して研究が進んでいます。 カップリング反応を起こすためには、タグが必要でした。つまり、くっつけたい有機化合物にはあらかじめタグを持たせないといけません。ですが有機化合物の種類によって、これが難しいこともあります。別のタグではダメか? そもそもタグなしで反応できないか? 研究を進めています。他にも、触媒にするパラジウムは値段が高いため、他の金属を使えないか?など、さまざまな試行錯誤が続いています。 さらに最近では、「人が考えるよりも機械に条件を探させた方が、効率が良いのでは?」と、コンピューターによる機械学習で化学反応の研究を加速させようという動きも出てきています。ここではお話ししませんでしたが、化学反応では、温度を上げたり、溶液を酸性(またはアルカリ性)にしたりと、反応の条件を整える必要があります。どんなタグで、どんな触媒の時には、どういう条件が良いかを考えると、その組み合わせは膨大になってしまいます。そういった条件探しをコンピューターにやってもらおうというわけです。今はまだ人間が予測できるレベルにしか至っていないようですが、今後、化学のモノづくりの世界にも機械学習による大きな変革が起こるかもしれません。 いまも世界中でたくさんの化学者たちが新たなモノづくりを目指して研究し、たくさんの失敗を重ねながら、新たな発見をし続けています。私たちが手に取る身近な工業製品の裏には、そんな努力があるのです。化学者たちの思いや努力は、未来の豊かな生活をつくるのに欠かせないファクターといえるでしょう。
10月9日(水) 午後6時45分に受賞者発表
今回の記事で紹介した内容は、日本科学未来館の科学コミュニケーターブログでも詳しく解説しています。今年のノーベル化学賞は10月9日(水)午後6時45分(日本時間)に発表されます。どんな研究が受賞するのでしょうか。ぜひご注目ください。
◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 田中沙紀子(たなか・さきこ) 1989年、埼玉県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。専門は分子生物学。企業での研究、ヘルスケアサービス開発等を経て、2018年4月より現職。趣味はアクセサリーづくり。