「ノーベル賞」のその後(3完)生活を更新し続ける「化学反応」 スマホ画面や薬、未来の製品にも
クロスカップリング反応に不可欠なのが、キューピッド役の「触媒」と呼ばれる存在です。ノーベル賞を受賞した3氏は、触媒としてパラジウムという金属を使いました。それまでも他の金属触媒を使ったクロスカップリング反応は開発されていましたが、くっつけられる有機化合物(A、B)が限定的でした。それが、パラジウムを使うことでさまざまな有機化合物を結合できるようになり、つくれるモノのバリエーションが大きく広がりました。このことが評価され、ノーベル賞につながったのです。 ここでは鈴木博士が発見した「鈴木-宮浦クロスカップリング」反応について、少し丁寧に紹介しましょう。この反応の強みは「簡単」という点にあります。その簡単さゆえに、世界中の研究室だけでなく工場でも使われるようになり、液晶材料や導電性材料をはじめ、医薬品や農薬などいろんな製品を生み出してきました。
結合に不可欠な「触媒」 カギを握る「タグ」
先ほどの化学反応をイメージしたイラストに再び注目してみましょう。有機化合物AとBには、それぞれアクセサリーのようなものがついていますね。実は、この「タグ」(専門用語では「官能基」といいます)は、カップリング反応において重要な存在なのです。タグが付いていないと、比較的万能なキューピッドであるパラジウム触媒も働くことができません。くっつけるべき有機化合物同士なのか、そして2つの有機化合物のどの場所とどの場所をくっつけるべきなのかを、タグによって判断しています。 ノーベル賞を受賞した3氏とも、パラジウム触媒を使ったクロスカップリング反応を開発しましたが、くっつけたい有機化合物に持たせるタグはそれぞれ異なります。 鈴木博士が開発した反応のタグは「ホウ素」を使っていることが特徴です。このタグならではの利点はたくさんあります。たとえば、実験室のようなしっかりと条件を制御できる環境がなくても、試験管の中で混ぜるだけで反応が起こせることや、それまでに開発されていたタグよりもはるかに毒性が低いことが挙げられます。だからこそ、工場での大量生産にも応用でき、生活に役立つさまざまなモノを供給できるようになりました。 先に挙げた、スマホやテレビ画面などの有機ELや高血圧薬といった医薬品、野菜を育てるときに使われる農薬など、いま私たちが使っているモノも、鈴木博士の研究がなければ、まだほとんどの人の手には届かないモノだったかもしれません。