「傷つく権利ないよね、仕事できないんだから」上司からひどい仕打ちを受けた女性が人事部で大活躍のワケ
多忙な日々に追われているうちに、自分の本来の目的を見失ってしまうことがある。グロービス経営大学院教授の若杉忠弘氏は「心理学の観点からすると、外からの圧力によって内発的なモチベーションが低下するのは自然の流れ。自分自身を取り戻すために有効な3つのプロセスがある」という――。 【図表】自分らしさを発揮する3つのステップ ※本稿は、若杉忠弘著『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』(かんき出版)の一部を再編集したものです。 ■仕事を回せて成果を出していても、ふと不安に思うこと 今、ビジネス環境が目まぐるしく変わっています。AIなどの新しい技術はあっという間に、今までのスキルや知識を陳腐化させると言われています。この速い変化に追いつくために、リーダーは、絶えず新しいことを学び、自分をアップデートし続ける必要に迫られています。 リーダーとして飽くなき成長を追求することで、企業の期待にも応え、自分も成功を手に入れることができます。しかし、このような頑張り方をし続けていると、ふと、こう思う瞬間が訪れるはずです。 「あれ? 自分はいったい、何のためにこんなに頑張っているのだろう」 「そもそも、自分は何をしたいのだろう」 仕事は回せている。それなりに成果を出せているときもある。でも、自分がわからなくなってしまうのです。そして、こう思うのです。 「果たして、このままの延長線上に自分のキャリアはあるのだろうか」 心理学の観点からすると、これは自然な結果といえます。外側からの期待や評価に応えようとすればするほど、内から湧き上がる本当の想いや情熱が抑え込まれてしまいます。外からの圧力で、自分を急き立てるようにモチベーションを高めていると、内発的なモチベーションが低下してしまうのです。
■疲労感や自己犠牲を減らし組織の成果を上げるには こうして、自分らしく活躍したいと思っていた人たちも、知らず知らずのうちに、環境変化の渦に飲み込まれ、自分を見失いがちです。 自分を見失っているかどうかは、次の直球の質問に答えられるかどうかでわかります。 「あなたにとって、自分らしさとは何ですか」 この質問のバリエーションとして、こう聞いてもよいでしょう。 「あなたが、最も大事にしている価値観は何ですか」 こうした質問をされて、答えに詰まってしまう方もいるかもしれません。 こうした問いに答えるには、自分自身を内省する必要があります。この内省に役立つのが、今世界的に注目されている「セルフ・コンパッション」のアプローチです。 セルフ・コンパッションとは、ひと言で言えば、「自分にやさしくすること」。そうすることで、自分自身で心身を整え、安心感を得て、自信をもって前に進むことができます。セルフ・コンパッションの技術を身につけることで、疲弊感や自己犠牲感が減り、自分、チーム、そして組織の成果を効果的に生み出すことができます。 そして、このセルフ・コンパッションを実践することが、自分らしさを発揮することにつながるのです。 ■自分らしさを発揮するための「3つのプロセス」 自分らしさを発揮するためには、どうしたらいいのでしょうか。先に、結論からお伝えしましょう。 ---------- プロセス① つらい経験を受け入れる プロセス② 価値観を見出す プロセス③ 自分の価値観を体現する ---------- このプロセスを図解すると、次の図のようになります。プロセス①から③にかけて、谷を下り、そこから上がってくる、U字の軌跡をたどります。 まずは、全体像を把握していただきたいので、早速、各プロセスの概要を紹介します。 <プロセス① つらい経験を受け入れる> 最初のプロセスでは、過去のつらい経験を思い出し、そのときに何が起きたのか、どんな気持ちになったのかを振り返ります。 自分らしさや価値観といった、ポジティブなものを発見したいのに、どうして、ネガティブな経験を振り返るのかと思われた方もいるかもしれません。「できれば、そんな経験思い出したくないよ」という声も聞こえてきそうです。 しかし、よく考えてみれば、私たちはポジティブな経験にくらべて、ネガティブな経験のほうが心に刻まれやすい性質をもっています。つらい経験は、人格の深いところにまで影響を及ぼし、その人らしさを形づくっていることが多いのです。そのうえ、普段はつらい経験を深く振り返ることをなかなかしません。 だからこそ、自分のつらい経験と、あえて向き合う時間をとる価値があるのです。