「僕の中では“鬼ごっこ”なんです」バスケ富樫勇樹(31歳)が語った言葉の真意は? 世代交代、八村騒動…混沌続く代表チームで第一人者が思うこと
これからは「若手の台頭から逃げ切る」鬼ごっこ
話題を、富樫の話に戻そう。 「自分の好きなバスケットを、代表選手としてやれるこの時間は、僕の中で『鬼ごっこ』なんですよ。年齢、技術、体力面などを含めて、(若手の台頭から)逃げ切れるようにね」 それでいて、富樫は若手の台頭を心から願っている。 「僕の場合は同じポジションに、あれだけの結果を残し、実際にNBA選手としてやっている河村(勇輝)がいるので。河村のように『あぁ、すごいな』と思えるような選手が出てくるのであれば、日本のバスケ界にとって喜ばしいことだと思います」 グアムの地で、彼の口から河村の話が出たのは偶然なのだろうか。このタイミングだからこそ、聞いておかなければいけないことがあった。 今年の7月9日のこと――。 河村がNBA挑戦の記者会見を開いた。そこで彼は、田臥勇太と富樫の名前を挙げ、感謝を口にした。そして、それを知った富樫が、Xでこんな投稿をして話題になった。 《なんでいつも名前を出してくれるんだろう 学生の時から目標と言ってくれて、光のような速さで追い抜いていった彼を心の底から応援しています》 「光のような速さで追い抜いていった」という表現は、重かった。 富樫がそれを認めるのかというショックと、彼のバスケ選手としての新章が始まるかもしれないというワクワク感と……。
「自分の想像以上の挑戦」をあまりしてこなかった
なぜ、あのような投稿をしたのか。このタイミングで、聞かずにはいられなかった。 「これは自分の良いところでもあり、良くないことでもあるのですが、自分の現在地や実力はよくわかっているつもりで。僕はけっこう、自分の(行く末が)“見えるところ”でしか挑戦してこなかった部分がありました。NBAにしても(若手選手が中心の)サマーリーグに挑戦したのは『試合に出られるだろう』という気持ちがあってのことだったし。 その後、東京オリンピックに出るために、日本へ(2015年に)戻ってきましたし……。結局、自分が想像できるよりも上のところにある挑戦を、あまりしてこなかった。そういう意味でも、35歳になったときに迎える次のオリンピックに挑戦したいなという気持ちがあったんです」 そして、こうも付け加えた。 「自分の可能性をもっと信じてあげないと」 彼の話を聞いて、ホーバスHCがよく口にする言葉を思い出さずにはいられなかった。 「自分の天井を、自分で決めないでください」 限界を決めることなく、成長を信じてハードワークを続けろというメッセージである。 では指揮官は、富樫が自身の新たな可能性を見すえ始めていることについて、どう感じるのか。ホーバスHCの答えはこうだった。 「若い選手って、やはり視野が狭いじゃないですか。勇樹は、キャプテンになってから、色々なところまで見えるようになったかなと思います」 キャリアや歳を重ねれば、技術的、体力的な成長を望むのは難しくなる。一方で、頭脳的、メンタル的な成長の余地は十分に残っている。 富樫の意識の変化は、未来に繋がりそうな“何か”を生む可能性がある。 4年をかけた壮大な「鬼ごっこ」。富樫ならば逃げ切って、ロサンゼルスの地で笑っているかもしれない。 <次回へつづく>
(「核心にシュートを!」ミムラユウスケ = 文)
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