<一球入魂・’22センバツ木更津総合>第1部 軌跡/2 チームに大きな自信 驚異の粘り 延長戦制す /千葉
2021年9月26日、県大会準々決勝の市船橋戦は、木更津総合にとって昨秋の公式戦で唯一の延長戦となった。 試合は両チームが小刻みに得点を取り合う展開となった。1点リードで迎えた九回裏、2死から死球で走者を出すと、連続安打を許して同点に追い付かれた。先発したエースの越井颯一郎投手(2年)は、前日の東海大市原望洋戦で79球を投げて完封。疲労が残るこの日は投球数がかさんでいた。この回を投げきってベンチに戻り、十回から金綱伸悟投手(2年)がマウンドに上がった。 「九回に追い付かれた時は負けが頭をよぎった」。スタンドから試合を見つめていた平野靖幸コーチはこう振り返る。しかし、チームは十回、驚異的な粘りを見せる。 十回表の攻撃が始まると、市船橋は右投げ投手に交代した。五島卓道監督は右投手に有利とされる左打ちの打者3人をベンチ前で準備させた。毛利隆仁内野手(1年)もその1人だった。毛利はヘルメットをかぶって、その時を待った。代打としてネクストバッターズサークルに入ったのは別の打者だったが、1死二、三塁の場面で五島監督が声をかけた。「毛利、いこう」。それ以外の指示はなかった。 「なんとしても走者を還して、結果を残したい」。打席に入った毛利は特別な思いを抱いていた。毛利は県大会初戦の磯辺との試合で背番号3をつけて出場したが、好機で回ってきた2打席で打てず、交代していた。2回戦からはスタメンを外れ、試合に出ることはなかった。「試合に出たい」。その一心で、1回戦の後、全体練習が終わってもコーチから寮に帰るよう促されるまでバットを振り、寮でも消灯時間ぎりぎりまで素振りを続けた。両手のひらは真っ赤になったが、「一桁の背番号をもらった以上、結果を残したかった」。 1球目の低めの直球は落ち着いて見送った。投手は2球目も直球で勝負してきた。内角気味に入ってきた球を、たたきつけるように打ち返した。打球は鋭く一塁手の前に転がり、「点、入ってくれ」と懸命に走った。内野ゴロに打ち取られる間に走者が生還し、勝ち越しに成功。最低限の仕事を果たした。 平野コーチは、練習に打ち込む選手らを見つめながら話した。「このチームにとって初めて競り合う試合展開だったが、粘り強く勝てた。この1戦で成長できた」。五島監督も「一つのポイントになった」と表現する一勝は、チームに大きな自信を与えた。=つづく